秘めやかな彷徨
何をどう間違ったのだろう……、とすでに何度目になるかも知れない問いかけを、幸村はまるで惰性のように頭の中で反芻していた。 最後に覚えているのは、ほぼ焦土と化したと言っていい焼け野原に立つ二本の柱だった。急造で間に合わせたようなそれは、しかし、数ヶ月前まで下界を睥睨するように威風堂々と聳立していた善光寺の山門の代わりだった。 だが、ここまで酷いとは思わなかった。本堂が焼き打ちにあったとは聞いていたが、一望した限り敷地内の建屋が全焼、否、灰燼に帰したと言ってもいい、凄まじい光景である。 四度目となった川中島の合戦の余波は思ったより深い爪痕を残しているようだった。犀川の南、八幡原で武田と上杉がまともに武力衝突した此度の合戦は、過去に前例のない激戦となり、夥しい死傷者を出すに至った。上杉方の損害も甚大だっただろうが、武田方は、信玄の実弟である武田信繁、重臣の山本勘助などの討死という耐え難い損失を被り、未だ立ち直れないでいる。 善光寺平の様子を見て来いと信玄に命じられ、ここまで来てはみたが、参拝客で賑わっていただろう門前町も兵火の煤に塗れ、予想以上の荒廃ぶりを見せ付けていた。 それというのも、この善光寺の庶民人気にあやかろうと、あろうことか上杉謙信が、住職ですら目にすることの叶わない絶対秘仏とされた阿弥陀如来像を奪取し、越後に持ち帰ったからだった。混乱のどさくさに紛れて何者かが放火してくれたお陰で、平安時代から受け継がれてきた豪奢な伽藍は悉く焼け落ち、この惨憺たる有様になったと聞いていたが、その見る影もない光景に、しばらく幸村は呆然とした。 戦国の倣いでは、戦の後始末は戦勝側の義務とされており、踏み荒らした田畑や山野から戦死者の遺体はもちろん、打ち捨てられた武具や旗先物、鉄砲の薬莢や弾丸の欠片まで悉く拾い集め、原状回復して住民達に返すというのが普通だった。恰も、武田軍には「黒鍬隊」という専門のお掃除部隊がいた。が、この状態ではどこから手をつけていいものやら、考えるだに気が重くなる。 もっとも、善光寺の関係者は僧侶も氏子も豪胆で、これだけ悲惨な情況であるにも拘わらず、山門どころか新たに切り出した回向柱を打ち立て、通常の如く参拝者を迎え入れていた。 「取り敢えず、住民は無事のようだ」 この逞しさがあれば、復旧も大して時間がかからないかもしれない。そう思い直し、幸村は身を翻そうとした。同行していた佐助とは今朝分かれて別行動をとっており、上田で落ち合う約束になっていた。 が、しかし、幸村の記憶はそこで途切れている。酷い頭痛で目が醒めた時には、すでに囚われの身だった。 いったい何が起こったのか。 手枷を嵌められ、自由を奪われた幸村の眼前には、宿命のライバルとも言うべき伊達政宗が傲然と立っていた。 「わけが判らないって顔してるな」 と、どこか面白そうに笑みを浮かべながら腕組みを解いた政宗はゆっくりと片膝を付き、幸村に対峙した。 「ひと晩考えて少しは利口になったかと思ったが、そうでもなさそうだ」 ぐいっと顎を掴み上げられ、幸村は顔を歪ませたが、意地でも声は漏らさなかった。 いくら何でも自分が何らかの疑いをかけられていることぐらいは察せられる。口を滑らせれば己れが不利になるのは目に見えていた。何故、北信の地に政宗がいるのかは知らないが、お忍びの行動であろうことは判る。幸村が監禁されている一室はそれなりの格式を持つ屋敷の中に設えられたもののようだったが、外の様子は全く窺い知れない。昨日は日の光を一度も見ていない。 「ま、あんたはいくら拷問しても喋らないと決めたことは一言も喋らないタイプだろうからな。気長にやるぜ」 そう独白のように言うと、政宗は幸村に着せ掛けていた一重の袷を一気に引き下げた。 「……っ」 咄嗟に幸村の表情が強張る。まさかまたか、と言いたげな顔色に、政宗は北叟笑んだ。 「少しは学習能力があるみたいだな」 が、露わになった上半身に不躾な視線を当てる政宗から目を反らそうともせず、幸村は毅然と睨み返して来た。さすがに肚は据わっている。が、昨夜のあからさまな痕跡の残る肌を晒して平気でいられるはずがない、と政宗は踏んでいた。 「痣になってやがんな。しばらく跡に残っちまうぜ」 言いながら、無抵抗の幸村の胸元へ指先を這わす。びくりと一瞬肌が震えたが、すぐに幸村は無反応を装い、知らぬ振りをした。 強情な、と政宗は感心する。 「どうした。昨日はあれだけよがってたってのに、もう忘れたってのか。案外無情なもんだな」 「……」 「まぁいい。それならそれで、何度でも思い出させてやるだけだ」 言下に、政宗は幸村を押し倒し、その上に圧し掛かった。幸村が息を呑むのが判ったが、きれいに無視して下肢を割り、その狭間へと手を伸ばした。 「や、やめよ……っ」 「遅いぜ」 組み敷かれてから抵抗しようとしても無駄である。政宗は余裕の手つきで幸村の下肢へ右手を滑り込ませ、その内股を撫で上げるようにラインを辿った。 「……っ」 膝の裏に触れたと思ったとたん、政宗は乱暴に片足を抱えるように掬い上げると、胸につくほど深く折り曲げた。 下帯をつけていない鼠蹊部が外気に晒され、幸村は慌てた。が、すでに手遅れだった。政宗の指先が、まだ熱を持って疼痛を訴える部分に辿り着くや、そのまま握力を込めた。 ずきり、と痛みが走る。幸村は辛うじて声を抑えたが、いきなりの暴挙に、持ち上げられた片足が震えた。 「いい感じだ」 奥の間が収縮するのが判る。恐らく、昨夜が開通式だったのだろう、月も出ていない暗闇の中、政宗の雄を咥え込まされた幸村の秘部は痛いほどきつく引き締まり、痙攣するようにびくびくと戦慄いていた。 あのきつく締め付ける感触をもう一度味わいたくて、政宗は早急に幸村の体を開いた。 「はっ、あぅ……っ」 いきなり突き上げられ、幸村は仰け反った。強引な挿入は決してすんなりとはいかなかったものの、一度目よりはスムーズに政宗が幸村を犯す。 囚われの身という屈辱を味あわせるように、怒張した鉄の楔が中の粘膜を削り取りながら入って来る。焼け付くような熱を持った擦過に、幸村は辛うじて悲鳴を押し殺した。苦しげに喘ぐような吐息を漏らすと、政宗がそれをじっと見ているのに気付き、幸村はその楽しそうな顔を睨みつけた。 「どうした。昨日はもっと素直だったじゃねぇか」 ぐいっと片足が押し上げられる。と同時に、政宗の下肢が幸村の股間にぶつかる勢いで密着した。とたん、躯幹に痺れるような痛みが走った。 「ぐ……っ」 狭洞の奥に政宗の先端が当たったのが判る。いとも簡単に根元まで咥え込まされてしまったらしい。一晩で変えられてしまった己れの体が信じられなかったが、その戸惑いや躊躇は、いきなり始まった激しいグラインドによって打ち散らされてしまった。肌と肌がぶつかる甲高い音が立て続けに鳴り響き、幸村の四肢を容赦なく揺さぶる。 「んっ……、あっ……、っ……」 いくら唇を噛み締めても、押し出すような声が漏れてしまう。それを何とかしようともがきながら、しかし、幸村は無駄な抵抗だと思い知っていた。 障子には雨戸につっかい棒。恐らくは不寝の番が獲物をもったまま一時の休息もなく見張っているだろう。逃げられる隙などなかった。 「強情だな、あんた。さすがに……」 政宗の意気も徐々に上がっていったが、まだ余裕があった。幸村を責め立てるだけではなく、尋問しなくてはならないと判ってはいたが、こんな淫らな時間を過ごすのも悪くない、と思う。こっちの方面はからっきし駄目だと思っていたが、幸村相手ならばなかなか楽しいのではないか、とすら思える。 主人の信玄には悪いが、もうしばらくこいつを借り受けておきたい、と政宗は舌先で乾いた唇を濡らしながら思った。 5/2のS.C.Cにて発行したコピー誌の導入部分です。 |