カラフルレンズ 1
ラボの机の上に溢れんばかりに所狭しと並べられているのは、色とりどりのガラス瓶だった。否、カラフルなのは、ガラスの色というより、中に収められている液体の色のようで、それが光を乱反射してきらきら輝いていた。
「すげ……、これ、どうしたんだ」
と、エドワードは目を見張った。
「店でも開くのか」
「そうしたいのは山々なんだがな」
と、いつも通りの咥え煙草を揺らして、ハボック少尉が嘆息する。
「とある事件の押収品だ。証拠品とも言うべきなんだろうが、こんなにあるとは思わなかった」
ざっと見渡してみても、20個や30個ではない。それぞれが違った形をしているため、一つ一つがまるで宝石のように綺麗だった。
「どういう事件?」
「ここの司令部の、一人の少佐がいきなり心臓発作で倒れて帰らぬ人となっちまったんだが、軍医が妙なことを言い出してな。専門的なことは判らないんだが、普通ではあり得ないような化学物質が血液中から大量に見つかったってんだな。要するに、毒物を使って暗殺されたんじゃないかってわけだ。で、この少佐に接触した人物を洗い出して、不審者を割り出した」
「その不審者の持ち物なのか」
「そうなんだが、問題はその後でな。そいつ、さっさととんずらしちまってたんだ。泊まっていた宿に押しかけたが、残されていたのは、若干の着替えと個人金庫の鍵が入ったブリーフケースだけで」
「金庫を開けてみたら、こういう瓶がいっぱい預けられてたってわけか」
「そういうこと。いったい、何に使っていたのか、皆目判らなくて困ってんだ。何らかの薬品らしいんだが、さして危険物にも見えないし。分析の結果を待ってる情況だが、どう見てもこれって……」
「香水の瓶みたいですね」
横合いから、アルフォンスが言う。その通り、とハボックは頷いた。
「どこかの腕のいいデザイナーが作ったみたいに綺麗な瓶だろ。さっきまでホークアイ中尉が興味津々で見てたぜ」
他にも話を聞いてやって来た女性兵士が何人もここで屯しては賑やかに騒いでいたらしい。こういう場に女性がいると喧しいことこの上ないが、ハボックのような無骨な男では判らないようなフレグランスの知識やその他あれこれをぺらぺら喋ってくれて、結構な参考情報になったのが収穫といえば、収穫だった。
「見た目もそうだが、やっぱ香水にしか見えねぇよな」
ほら、とハボックは手前の一つを取り上げ、ぽんとコルクの栓を抜くと、スポイトで中の薄紅色の液体を吸い取り、エドワードの手の甲に一滴、ぽつりと落としてくれた。とたん、ふわりと花の香りが広がった。
「本当だ」
「ご丁寧にも、ご婦人方が、これはアレの匂いに似てるとか、ソレに似てるとか言い出してな、いちいち命名してラベルを貼ってくれたんだ。まぁ、色気のない番号で呼ぶよりはいいかと思うんだが、問題はこれからだ」
と、ここでハボックは腕を組んだ。
「諜報関係に詳しい奴が教えてくれたんだがな、こういうもんに毒物を仕込んでターゲットに近づけて、昏倒させるなり、殺すなりするって始末人がいたんだそうだ。手の込んだことに、一種類の瓶の中身を調べてみても毒物は検出されない。しかし、二種類、もしくは三種類の瓶の中身を混合させると、殺傷力のある毒物になるってわけだ」
「成る程、後で捕まっても毒物は持ってないわけだから、証拠不十分で釈放されちまうって寸法か」
「その通り」
なかなかいいやり方である。暗殺方法としては巧みな方である。薬物の知識がなければできないわけであるから、犯人はそれなりに専門の教育を受けた人物なのかもしれない。
「で、俺にどうしろって?」
毒物の検出など、エドワードにはできない。元より、専門分野ではなかった。
「実はな、その組み合わせなんだが、総当りでやってみようってことになったんだ。しかし、どうやればいいのか公式も方程式も判らない状態で困ってんだ」
「要するに、数学モデルを作って欲しいということですね」
と、察しよく答えるアルフォンの横で、しかし、エドワードは素っ気なく言い放った。
「やめとけ。手間がかかるだけだ」
「何で?」
「膨大な数になるぞ」
「それは百も承知の上だ。俺だって、ぱっぱとできるとは思っちゃいないぜ。しかし、どれくらいの組み合わせの数があるのかぐらい教えてくれたっていいだろ」
数を教えれば、諦めもつく。単純に、ハボックは知りたがった。やれやれと肩を竦め、それでもエドワードは近くにあった紙と鉛筆を取り上げると、さらさらと計算式を書いた。
「例えば、瓶が10本あって、二種類ずつ組み合わせるとすると、
21+22+23+24+25+26+27+28+29+210=2,046通り
一回の組み合わせを1分でやるとしたら、大雑把に見て34時間かかるな。これが、三種類ずつ組み合わせる場合は、
31+32+33+34+35+36+37+38+39+310=88,572通り
1,467時間かかるから、ざっと61日か。言っておくが、24時間ぶっ続けで作業した場合だ。ついでに言うと、四種類づつだと、
41+42+43+44+45+46+47+48+49+410=1,398,100通り
これだと971日。2.7年かかるな」
やる気はあるか? と問われ、ハボックは思わず後ずさってしまった。いくら何でも三年近くも香水の組み合わせ作業をするなどご免被りたい。一人ではなく数人でやるとしても、かなりの時間がかかることが予想される。いや、その前に、協力を申し出てくれる者がいるだろうか。
「で、これは瓶が10本の場合だけど、30本を二種類づつ組み合わせるとしたら、8,564,793,336通り。271.6年かかるな」
人の寿命を遥かに越えてしまっている。それ以上、ハボックは聞こうとしなかった。やっとどれだけ無謀なことをしようとしていたのか、判ったらしい。
「ダメか……」
「一番いいのは、犯人をとっ捕まえてゲロってもらうこった」
「そうだな。こんな回りくどいことやるよりよっぽど現実的だ」
ハボックはそう判断した。が、しかし、とハボックは思い直した。10本の瓶を選び出して2種類づつ組み合わせるのならば、数日でできそうである。
容疑者を追うのは当然として、捕縛できた時の証拠固めとしてそれなりのデータを作成しておくのは悪くない、とハボックは判断したらしい。エルリック兄弟が司令部を立ち去った後、この地道な作業をすべく、組み合わせ表を手書きで書いていた。
と、後日、エドワードはロイの口から聞かされた。
「……で、この始末かよ」
がっくりと、エドワードは肩を落とした。目の前の診療ベットでは、しっかり意識を失って点滴を受けているハボックが寝かされている。どうやら、適当に選んだ瓶の中に当たりがあったらしい。
「幸いなことに、命に別状はないそうだ。吸い込んだ量が少なかったようだな。意識が回復するのは一両日中とのことだが、後遺症が残るかもしれない。何せ、例の事件の犯人が使ったのは、アトロピンだ。あれは自律神経に働きかけて心臓の鼓動を早める」
普通、医療現場では心停止した患者に投与して、拍動を蘇らせるのに使う薬物である。が、健常者が服用するとオーバーロードを起こして心臓が止まってしまうため、アトロピンは毒薬としても有名だった。
「あれはアルカロイドから合成するんだったか」
「いや、ベラドンナという植物から取れる毒の主成分がアトロピンで、アトロピンはアルカロイドの一種だ。エピネフリンという似た作用の薬物もある。別名アドレナリンと言えば、判るか」
「それも心臓をがんがん動かすヤツだな」
「そうだ。エピネフリンも心停止した患者に投与する」
淡々としたロイの説明に、エドワードは何度もため息をついた。よく死ななかったものだ、と思う。いや、昏倒するだけで済んだのなら、吸い込んだのはアトロピンではなく、別の物質だったのかもしれない。
が、いずれにしろ、とんだ災難である。
「変なところで真面目だよな、少尉ってば」
「好きにしろと言って、止めなかった私にも責任はある」
「止めなかったのかよ」
「私も君と同じ計算をしていたからな。まさか、こんなに早い時点で当たりを引いてしまうとは予想していなかった。くじ運がいいのか悪いのか、判断に苦しむよ」
それはエドワードとて同感である。確率的に、どれくらいのものだろうか、と計算式を立てようとしてやめた。
アホらしい。偶然という現象はいくら数字で表してみても、あくまで不確かなもので、絶対確実なものを提供してくれるわけではない。あやふやなものを求めても現実的ではなかった。すでに、コトは起こってしまっている。
「しかし、こいつにとってはいい休暇になったわけだ」
眠っているハボックの頬に手を伸ばし、ロイはそっと指先で撫でてやると、うっすらと口元に笑みを浮かべた。大事な部下を寸でのところで失うところだったという安堵の成せる業か、どこか愛しげにも見える。
「ところで、少尉の作業の方はどうなってんだ。まさか放りっぱなしかよ。それとも、誰かが引き継いでやってんのか」
アトロピンが発生しなかったとすれば、他の組み合わせがまだあるはずである。ここで放置するのは、中途半端であるだけに危なかった。
「こいつが残したメモがあるから、やろうと思えば、すぐにでも取り掛かれる。押収品もそのままにしてある。が、誰もやりたがらないだろうな」
あんな辛気臭い仕事。とまでロイは言わなかったが、エドワードは納得した。どちらかと言えば、軍人は肉体派が多い。じーっと一室に篭って、あれでもない、これでもない、と単調作業を繰り返すのは、殆ど拷問だろう。しかも、報われるかどうかも保証されていない。
「仕方がない。俺がやるよ。頼まれたとはいえ、今回の作業を示唆したのは俺だからな」
どこか諦めたような口調に、しかし、ロイはからかうように言った。
「ずいぶんと殊勝なことを言うようになったな。どういう風の吹き回しだ。それとも、ハボックに思うところでもあるのか」
「そんなんじゃねーよ」
「まぁいい。やってくれるというのならありがたい。幸いなことに、瓶の中身の解析も進んでいてね、明らかに無害なものは大幅に省くことができた。怪しいのは、12〜13本だ」
「じゃ、アルと二人でやれば、四、五日で終わるな」
13本を二種類ずつ組み合わせるとすれば、16,382通りである。時間にすれば、273時間。11.3日で完遂できる計算になる。
「そうと決まれば話は早い。鑑識の方に話を通して、適当な場所を提供してあげよう」
「異常があったら、すぐにそっちに連絡が行くよう手配しておいてくれ」
「判った」
二人は病室を出ると、そこで別れた。
早速アルフォンスにことの次第を話すと、快く引き受けてくれた。が、釘を刺すのも忘れない。
「三種類づつ組み合わせるのじゃないのならいいよ。313×2−3=3,188,642通りになるからね。単純計算で、6年かかるよ。二人でやっても3年だ」
「ぞっとしねぇな」
「累乗の計算は怖いからね」
さりげなく脅しをかけられ、エドワードは肩を竦めたが、作業自体には興味を掻き立てられた。ロイから齎された分析結果の中には天然素材で未解明の物質や、国内では産出できない元素がいくつも混合されていたりしたのである。
「やっぱ、プロだよな。こんなもん持ち歩いてるってことは。これで密輸ルートなんかも判明したりしたら儲けもんだな、大佐ってば」
「そうだね」
「俺も欲しい。ちょっとくらいサンプルでもらって行っても……」
「ダメだよ、兄さん」
ふざけて瓶に手を出そうとするエドワードを、アルフォンスが咎める。こういう点、弟は厳しかった。
「押収品ってことは、軍のものってことなんだからね。勝手に持ち出したら、今度は僕達が犯罪者だよ」
「冗談だって」
渋々、それでも心底残念そうにエドワードは手を引き、代わりにハボックが残して行ったメモを見遣った。決して、整然としたものではなかったが、一応表らしき線がいくつか引かれており、升目に通し番号とアルファベットが書き込まれていた。瓶には全てラベルが貼られていたため、すぐにどれがどれだか判り、二人は作業に取り掛かった。
「しかし、効能がよく判らないってもんを混ぜちまってもいいのか。いきなり爆発なんてしたらどーすんだ」
「そういうのは僕がやるよ。分けておいて」
悪いな、と思いながらもエドワードはX印の瓶をより分けてやった。
「爆発するような火薬や原料の類はないし、発火させるような物質も信管もないんだから、大丈夫だよ。もし、そんな危険なものがあったとしても、ここにある瓶くらいの容量なら、手が吹っ飛ぶくらいですむね」
だから、自分達は平気だ、とアルフォンスはこともなげに言ってくれた。鎧の体に魂だけという存在は、それなりに感覚が違うものらしい。
「そりゃそうだが、余りいい気分じゃねーな」
ある意味、適役である。二人は互いに顔を見合わせると、力なく笑った。
「ま、いい。始めるか」
「そうだね」
さっさとすませてさっさとトンズラしよう。こんなところでぐずぐずと道草を食っている暇はないのである。
が、しかし、「C-27」と書かれたラベルの成分を見て、風向きが変わった。
「これ、麻黄じゃないのか」
エドワードの言葉にアルフォンスが成分表のメモを覗き込む。
「本当だ。この化学式はエフェドリンの原料だね」
「メタンフェタミンだよな。いや、フェニールアラニンか。どっちでもいいが、麻黄はシンでしか取れないはずだ。犯人はそっちの人間なのか。いや、シンと取り引きルートを持っている奴ってことか」
「そんなところだろうね。でも、これって持ち込んじゃいけないものじゃなかった?」
「商品になったものはダメだが、原料までは規制されてないはずだ。あれでも一応、医者が使ってる薬だからな。違法じゃないが、しかし、やっぱ、これって大佐に報告した方がよさそうだな」
はっきりきっぱり、覚醒剤の材料である。麻黄から抽出された成分は、エフェドリンという咳止め薬になるが、向精神薬に相当する覚醒剤にもなるのである。もちろん、習慣性も依存性もあり、摂取量が多ければ死亡することもある、かなり強烈なクスリだった。
放置しておくわけにもいくまい。
「怪我の功名だな」
と、ロイはエドワードからの報告を受けて鼻を鳴らした。
「例の不審人物の容疑に一つ追加だ。薬物の不法所持」
はい、とロイの横に控えているファルマンが頷きながら、頭の中でメモを取る。
「それで、肝心の容疑者はみつかったのか」
「いや、まだだ。途中まで足取りは掴めたが、それっきり途絶えてしまっている。憲兵司令部にも協力してもらって目下捜索中だ。しかし、我が国で産出しない物質を扱っていたとなると、国外への逃亡も考えられるな。そっちの方も手配しておこう」
判りました、とファルマンが、やはり頭の中でメモを取る。
「瓶の方はまだ何か出そうだから、もうちょっとやってみるよ。いいものがあったら、教えてやる」
「そうしてくれ」
もしかしたら、掘り出し物があるかもしれない。と、当初の目的とは別の興味を引かれたエドワードはロイの執務室を出て行った。
それから丸一日経って、またもやエドワードの興味を引く異変が起こった。
「あれ、これは何だろう」
と、混合された液体を見て、アルフォンスが首を傾げた。
「どうした?」
「無味無臭になっちゃったよ」
これでは香水としての用を成さない。ゆらゆらとビーカーの中で揺れる、ロゼワインのような薄い紅色の液体は綺麗に煌めいていたが、ただの色水のように思えた。
「変だな、確かに」
エドワードがその混合した液体を軽く振ったとたんだった。ふわっと何らかの気体がわき上がって来た。が、匂いがなかったため、蒸気か何かを浴びたような気配を感じただけだった。
「何だ、こりゃ」
少々噎せて、エドワードは軽く咳き込んだが、異常はそれだけですんだ。
「だけど、面白そうだね。これ、何かの溶液になっているみたいだ。もうちょっと調べてみる?」
「三種混合のドツボに嵌っちまうぞ」
「この溶液を基礎にするから、数としては二種混合と同じだよ」
「まぁ、そうだな」
アルフォンスがいいというのなら、エドワードに反対する理由はない。寧ろ、ロイに報告できそうな成果が出れば、バンバンザイである。
「じゃ、俺はこっちの溶液の分析の方、やるよ」
そう言ってエドワードは、ぱんと胸の前で両手を打ち鳴らした。
それから一時間も経たないうちだった。
血相を変えたアルフォンスがロイの執務室へ飛び込んできた。
エルリック兄弟が検証実験を行っていたのは、地下の書類保管庫の隣の倉庫だった。床はコンクリートで固められており、扉も鉄製で機密性が高い。全体的に頑丈で防音設備も施されていた。
その冷たい床にエドワードは座り込み、苦しげに胸を押さえて肩を上下させていた。熱があるのか、頬が高潮し、額に汗が浮かんでいた。
一見すると、二、三km全力疾走した直後の様子に似ている。どきどきと心臓が早鐘を打ち、息も上がって肌も上気していた。
「鋼の」
と、呼びかけるロイに、エドワードは涙で潤んだ顔をのろのろと上げた。
「大佐……」
苦しい息の下から、エドワードが喘ぐ。もしかして、アトロピンが発生してしまったのか、と思ったロイは、しかし、すぐに頭を振った。アトロピンは液体である。臭気を吸い込んだくらいではこんな状態にはならないはずだった。
「いったい、何をしていたんだね」
へたり込んでいるエドワードを抱き起こしてやりながら、ロイは状況説明を要求した。
「判んねーよ。アルと混合の続きをやってただけで……。C-27とV-8を混ぜて放っておいたら、何か気体がぶくぶく出て来て、ラズベリーみたいな匂いがして……」
「それを嗅いだら、こうなったのか」
「いえ、面白がって、こっちの混合液を四、五滴垂らしてみたんです。そうしたら、こうなったんです」
アルフォンスが指し示す瓶を見る限り、ハボックを昏倒させたものでないことはすぐに判った。どうやら、別の薬物が発生したらしい。
「すぐに科学技術研究所に連絡して、そのビーカーの中のものを分析してもらえ。それと、軍医に言って医務室のベットを一つ空けてもらうように言っておいてくれ」
と、背後に立っていたファルマンに命じると、ロイはエドワードを抱き上げた。いつもなら、こんなことをしようものなら野良猫のようにぎゃあぎゃあ暴れて抵抗するのだが、何故かこの時、エドワードはぎゅっとロイの軍服にしがみ付くように身を預けた。
珍しいこともあるものだ、とロイは思ったが、それだけ体が辛いということでもある。早々に手当てしてやらねば、とロイは駆けるように地下室を出ると、地階の医務室へと向かった。
医務室には二等軍医が常駐している。運び込まれたエドワードを見て、熱病か何かと思ったのだろう、軍医はすぐに診療台に乗せると、服を脱がせた。
服の下は、下着をびっしょりと濡らすほど汗をかいていた。が、不審な発疹も化膿した傷口も見当たらない。
ロイから事情を聞いた軍医は、難しい顔をした。
「血液検査をしてみましょう。後は分析結果を待って対処するしかありませんね」
下手に手出しして、間違った治療を施してしまっては、最年少の国家錬金術師を失ってしまうことになりかねない。
「アルフォンス、君は科学技術研究所の所員と溶液の分析に協力してやってくれ。鋼のは、私達の方で見ているから」
と、ロイが決断したのは、軍医が取り敢えずの療法として鎮静剤を投与してすぐのことだった。アルフォンスに否応はない。
「すみません。兄さんをお願いします」
側についていてやりたいのだろうが、現場を知っている者がいなくては、迅速な検証ができない。引いては、エドワードの快復が遅れる。己れの欲求を押し殺し、アルフォンスは地下室へと戻って行った。
「大佐、あんたも仕事に戻れよ」
と、意識だけはしっかりしているエドワードが小憎らしいことを言ってのける。
「俺は大丈夫だから」
ただ、熱っぽいだけ、と患者用の服に着替えさせられたエドワードが強気の笑みを浮かべる。
「そうだな、君は殺しても死なない奴だった」
「よく判ってんじゃねーか」
後で様子を見に来る、と言い残し、ロイは医務室を出て行った。
「第三の物質、出現だな」
この調子では、件の少佐を殺害した化学物質が判明するまでに何人の犠牲者がでることやら……。暗澹たる気分でロイは執務室に戻ったものの、全く仕事が手につかなかった。
エドワードはしばらく医務室のお世話になりそうだった。これでは、食事に誘いに出ることもできない。無論、夜のお勤めもお預けだろう。
「残念だ……」
せめて終業後、様子を見にからかいに行ってやろう、と思う。予約していたレストランをキャンセルし、ロイはため息をついた。
2004,11,21 To be continued
本当に久しぶりのサイト更新です。そのわりにもどかしい感じがあります。次はHシーン、書きたい……。
しかし、組み合わせの計算、あってるかな。これって等比数列っていうんでしたっけ。確か、高校の数1で習ったはず。もう記憶も彼方です☆