ダブルブキング








 ばたーん、という派手なドアの開く音に驚いて飛び起きる間もなく、エドワードはいきなりどさりと男二人の体重に圧し掛かられ、悲鳴を上げた。
 「なっ、何だよ、いきなり……っ」
 慌てて二人を押しのけると、容赦なくエドワードは怒鳴りつけた。が、それくらいでは全く堪えない男どもがいい塩梅でベットに転がり込む。
 「よう、大将。久しぶりだな。元気にしてたか」
 「何だ、こちらに来ていたのか。連絡ぐらい寄越したまえ」
 いくぶん呂律の回らない口調に、エドワードは苦虫を噛み潰した。この二人が連れ立って出かけたと聞いた時、こうなるのではないかと悪い予感がしていたのであるが、余りにも予想通りの体たらくに、今更ながら来なければよかったと後悔の念に打たれた。が、他に行くところはない。
 「あんたら、酔ってんのか。……いや、ものの見事に出来上がっちまってんな」
 どこでどれだけ飲んで来たのか知らないが、呆れたようにエドワードは寝台から這い出すと、上機嫌で軍服のまま敷布に懐いているロイとハボックを見下ろした。威嚇するように腰に手をやると、ため息が出た。
 ロイに相談することがあってアルフォンスを人に預け、急遽ここまでやって来たのであるが、とてもまともに話のできる状態ではない。鼻を摘むほどではないが、二人からは濃厚なアルコールの臭いが漂い、かなり過ごしたらしいことを告げていた。
 これが東方司令部でも一目置かれている切れ者か、と情けなくなったが、何か祝い事でもあったのだろうか、とも思う。時刻はすでに午前様。ロイの帰りを待って待ちくたびれて二階の客間に潜り込んだのは何時間前のことか。
 「どうした、鋼の。君が直接私の自宅を訪ねてくるとは珍しい。司令部では言えないようなことでも起こったのか」
 こっちへ来たまえ、といつにない上機嫌でロイが手招きする。勝手にハボックはサイドボードの上にあった水差しから湯冷ましを飲んでいたりしていたが、一応二人とも正体をなくすほど泥酔してはいないようだった。
 「確かに、司令部では言えないようなことが起こっちまったんだよ」
 肩の力を抜き、ぼやくように呟くと、エドワードはちらりとハボックに目をやった。できれば、余人を交えたくはない。が、それを読んだように、ロイは敷布から起き上がると胡坐をかき、それなりに話を聞く姿勢をとった。
 「ハボック少尉のことは気にしなくていい。いつも私の側にいるだろう」
 ハボックはロイの行くところには、必ずと言っていいほど同行しているし、執務室に姿の見えない時はドアの向こう側に立っている。単なる部下というより、側近というヤツだろう。エドワードとロイのただならぬ関係も知っているし、自宅の合鍵も持っている。秘密のひそひそ話など今更だった。
 「そうだったな。……まぁいいや」
 すぐに思い直し、エドワードはいったんは飛び降りた寝台に近付くと、片膝を乗せてロイに身を寄せようとした。
 「実は……」
 と言いかけ、敷布に乗り上げたとたんだった。
 「隙あり」
 いきなりハボックがタックルするように抱きついてきた。そのままベットに倒れ込むように押し倒されたエドワードは抗議の声を上げた。
 「何すんだ、少尉っ」
 「ベットに入って待ってなんて、やることは一つだよな。もう準備OKなのか」
 ごろごろと、猫が擦り寄るようにハボックがエドワードの背中に頬擦りする。それと同時に、下肢を両足で挟み込み、蹴り上げられないよう俯せに押さえ込んでしまった。
 「準備OKってのは何だよ、ふざけんなっ」
 「だって、ちゃんと脱いでるじゃねぇか」
 と、寝巻き代わりに着ていたドレスシャツの上からハボックがエドワードの体を弄る。一応、最低限の下着は着けているが、待っていたと言われれば、その通りだった。しかし、目的は断じてハボックが邪推しているような不埒な行為ではない。
 「この酔っ払い! 離せよ」
 エドワードはじたばたともがいたが、大人の男に力づくで抱き締められてしまってはどうすることもできない。しかも、相手は自分よりも一回りも二回りもでかい上に、軍隊格闘技を仕込まれた軍人である。いくらエドワードが体術に優れていても、軽量級の悲しさで、押さえ込まれてしまえば体格や腕力の差がものを言う。加えて、酔っ払いの馬鹿力は侮れない。おまけにロイは頼りにならなかった。
 「おい、ハボック、ふざけるのも大概にしておけよ。後で痛い目に遭うぞ」
 と、笑いながら見ているだけ。一応、エドワードの腕を取り、ハボックの下から引き摺り出そうとしてくれたものの、それもどこまで本気なのか、と疑いたくなるような緩慢さだった。酒のせいもあるのだろうが、この情況を楽しんでいるのが見て取れ、エドワードには腹立たしい限りだった。
 「こ、この野郎っ」
 自力でハボックに掣肘を食らわしてやろうと身構える。が、その刹那、ハボックの手がエドワードの胸に辿り着いた。
 むにゅっ、と柔らかな感触。
 「ん?」
 ハボックが首を傾げるような、妙な声を漏らす。
 「どうした?」
 「あ、いえ、これって……。この感触は……」
 言いながらエドワードの胸の辺りをごそごそと弄り、片手を動かす。確認するというより、揉みしだくような乱暴な行為に痛みを感じるのか、エドワードが嫌がって身を捩った。
 「やめろよ。触るなって言ってるだろっ」
 が、ハボックの手の動きは止まらない。確認するついでに役得よろしくおさわりしているのは明白だったが、ロイは怪訝に首を傾げた。
 「この感触?」
 「これって、俺の記憶に間違いがなければ……、まさか、オッパイ……? 俺、そんなに飲んでたかなぁ……。それとも、大将、実は女だったりしたのか」
 「んなわきゃねーだろっ。俺は生まれた時から男だ」
 目一杯に怒鳴ったつもりだったが、体全体で拘束されていては迫力もへったくれもあったものではない。もうしばらく弄ぶように、ハボックの両手がエドワードの胸を揉む。
 「やっぱ、そうだよな、これは……。Cカップってところか。結構手応えあっていい感じ」
 「何だ、本当に乳房があるのか」
 ロイが俄然、興味を持ったように身を乗り出して来た。アルコールで体温が上がって暑いのか、着ていた軍服の上衣を脱ぎ、ワイシャツのボタンを一つ二つ外して風を入れているところだったのだが、あからさまに胸をはだけたままの姿で手を伸ばされると、さすがにぎょっとする。
 「何だよ、あんたまで。さっさとやめないと本気で怒るぞ」
 が、いくらエドワードが抗議しても、脅しをかけても、どこ吹く風でロイはシャツの裾から手を突っ込んだ。遠慮なく剥き出しの乳房に触れられ、エドワードは逃げ腰になったが、ハボックとは違って、ロイの手つきは優しかった。愛撫するように乳房や乳首を撫でられ、ついあらぬ声が漏れる。
 「ん……っ」
 びくんと身を竦めたとたん、ハボックがにやりと笑った。
 「何だ、これくらいで感じてんのか」
 「ば、バカ野郎……っ、いきなり触るからだろ」
 しかも、二人がかりで。必死にエドワードは反論し、ハボックをぶん殴ってやろうともがいたものの、真っ赤に頬を紅潮させた状態で喚いても迫力はない。寧ろ、男二人を煽ってしまった。
 「だったら、試してみようぜ」
 と、悪ふざけの表情で片腕を捻り上げるように上半身を起こさせると、ハボックはエドワードのシャツの前を開き、胸元から腹までを一気に外気に晒した。瞬間、白い肌がロイとハボックの目を射る。機械鎧の片手片足はそのままだったが、若く瑞々しい、充分魅惑的な四肢が暴かれ、咄嗟にエドワードは目を逸らした。
 「うわ、本当にこりゃ女の体だな。胸はちょっと小ぶりだけど、いい形じゃねぇか。まだ一〇代だから、ちゃんと下から持ち上がってて乳首が上向いてる」
 と、ハボックがぴくんと立ち上がった生意気そうな突起を撫でる。
 「よ、よせ……、くすぐったいっ」










To be continued