Black Card 11



 幸い、肩の傷はすぐに塞がった。経過も良好だった。
 全治一ヶ月だという予測を裏切り、エドワードは半月で病院を退院し、約束通り豪勢な食事へと連れて行ってもらった。が、二人っきりで出かけたのではなく、ハボックやブレダ、フュリー達も同伴で、かなり賑やかな全快祝いとなった。どうやら今回の件の打ち上げも兼ねていたようで、一同が雪崩込んだ店はかなりフランクだった。テーブルは大人数用、料理は大皿という、どちらかといえば居酒屋の雰囲気だった。お陰で、以前感じた堅苦しさからは解放され、エドワードは内心ほっとした。
「それじゃ、ジェイ・ビーって奴には、少尉も会ったことがなかったのか」
「名前だけは知らされてたんだがな」
「用心深いなぁ」
「敵を騙すには、まず味方からってことだ。怒ってくれるな。ソードのメンバーはほぼ全員がお縄になったし、パラメダインのメンバーも何人か捕捉できた。尋問も順調。これでしばらくは連中も大人しくしてくれるだろ」
 言いながら、ハボックがビールを注いでくれた。エドワードは未成年だったが、ビールやワインなどの軽いアルコール飲料は口にしてもいい歳(一五歳以上ならOK)になっている。注がれたジョッキに口をつけ、しかし、慣れない苦味に、すぐに眉をしかめた。
「どうした? ソフトドリンクの方がいいか」
 手回しよくハボックがグラスに注がれたオレンジジュースをエドワードの前に置いてくれる。
「サンキュー」
 色といい、香りといい、それは確かにオレンジジュースだったのであるが、しかし、その後の記憶が酷く曖昧で不鮮明になっていることを、翌日になってからエドワードは思い知る。
 覚えているのは、居酒屋を出て、二次会だ、と上機嫌のハボック達が揃って大通りから繁華街へと入って行き、馴染みらしいバーの入り口を潜ったことだけだった。そこでも何やかやと囃し立てられ、色々と飲まされた……ような気がする。
 恐らくは、ロイも付き合ったのだろう。
 でなければ、この情況の説明がつかない、とエドワードはホテルの一室らしいベットの上で、呆然と枕を抱き締めていた。
 時刻は、恐らく深夜を回って朝が近いくらいだろう。
 暗闇の中、ぼうっと蛍光塗料で刻印された腕時計の文字盤が浮き上がっている。無論、それを嵌めているのはエドワードではない。
「何で、こいつが……」
 疑問だけが頭の中を空回りする。
 あろうことか、己れと同じセミダブルのベットの中で眠っているのは、ロイだった。したたかに飲んだアルコールのせいで暑くなってしまったのか、それとも別の目的のためか、店にいる時はきちんと着用していた軍服が乱雑に脱ぎ捨てられて床に散らばっていた。
「もしかして、全部脱いでたりして……」
 しかし、怖くて確認できない。元より、自分も身につけているものが何もないのである。トレードマークになっている三つ編みすら解かれ、いったい数時間前に何が起こったのか、恐ろしい想像が脳裏を駆け巡るばかりである。
「まさか、だよな」
 体を開いた覚えはない。全くない。しかし、記憶が吹っ飛んでいるのは事実で、それを認めることには吝かでない。
「……」
 そっとロイの様子を窺うと、すーすーと規則正しい寝息が聞こえて来る。熟睡しているらしい。目立つほどの疲労ややつれは見えないが、それなりにゆっくりと休養したい欲求は溜まっているようだった。放っておけば、朝までぐっすりだろう。
「それじゃ、今のうちに」
 と、エドワードはそそくさとベットから抜け出そうとした。
 が、体を動かしたとたんだった。ぎしり、とスプリングが軋み、ロイの上半身が大きく揺れた。
「……眠れないのか」
 向けたばかりの背に、静かなロイの声がかけられる。エドワードは文字通り、ぎくりと首を竦めた。
「な、な、何だよ、あんた、起きてたのか……っ」
「さっき目が覚めた」
 言いながら、離れようとするエドワードの体に腕を回し、ベッドの中へと引き戻す。当然のことながら、後ろから抱きかかえられる形になり、ぴったりと裸の肌と肌が密着する。その体温を感じた刹那、エドワードの心臓が跳ね上がった。
「は、離せよっ」
「何故だ」
「俺、帰る。宿でアルフォンスが待ってるんだ」
「こんな時間にか。クルマも拾えないぞ。帰るのは夜が明けてからにしなさい。夜道の一人歩きは何かと物騒だ」
「そうはいくかよ。何も連絡してないから、心配するだろ」
 まるで己れの腕の中に閉じ込めておこうとでもするかのようなロイの抱擁に、エドワードはじたばたと暴れた。否、むずがった。が、そうやすやすとは離してくれず、寧ろ、ロイの足と足の間にエドワードの片足が挟まれ、しかも、体重をかけられ、身動きするのも難しい体勢へと持って行かれてしまった。
「一般回線はもう通じていない。諦めたまえ。それに、皆と出かけるのは言い置いて来たのだろう? だったら、徹夜で飲んで騒いでいたと思ってくれるよ」
「だ、誰が、飲み明かしたりするかっ。俺はどっかの酔っ払いかよ」
「失敬。確かに、君は酔い潰れて路上で寝込むようなタマじゃない。スクリュードライバー一杯でご機嫌になってしまうのではね」
「スクリュードライバー……?」
 聞き覚えのあるカクテルの名前に、エドワードが首だけで振り返る。
「俺、そんなの飲んだっけ」
「ハボックに勧められて飲んでいただろう。もしかして、君はあれをただのオレンジジュースだと思っていたのか」
 くすり、とロイが笑う。どこか小馬鹿にしたような笑みに、エドワードはかっとなった。
「そんなわけねーだろっ。飲みつけなかっただけだっ」
「まぁ、そうだろうな」
 スクリュードライバーはウォッカベースのカクテルである。肉体労働者がオレンジジュースにウォッカを入れて、ねじ回しで混ぜて飲んでいたためこの名前がついているのだが、口当たりがいいので、ついつい過ごしてしまう。しかし、アルコール度数がかなり高いので、レディキラーとも呼ばれている一品だった。
「もしかして、謀ったのか」
 胡散臭げにエドワードはロイを睨んだが、当の本人はけろりとしたものだった。
「まさか。偶然だ」
 本当かどうかはともかく、この情況から逃れるのが先だ、とエドワードは我がもの顔で迫って来るロイの胸を押しのけようとした。このままでは何をされるか判らない。
「も……、いいから離せ」
「離したら、行ってしまうのだろう」
「当たり前だ」
 きっぱりと断言され、ロイが嘆息する。
「そういう態度だから、私達は行き違いをしてしまう。君は私に関して色々と誤解をしていると思うのだが、どうかね」
「そういう込み入った話なら、明日にしろよ。こんなところでやんなきゃいけないわけじゃねーだろ」
 エドワードはあくまでロイから離れたがったものの、腕力でもテクニックでも二人の差は歴然としていた。時を置かず、エドワードは息を切らして押さえ込まれることとなり、白い項にキスマークが残るほどきつい口付けを受ける羽目になった。
「こういう時でないと、君はさっさと逃げてしまうからね」
「確信犯かよ……」
 こんなところに連れ込みやがって……、とエドワードは歯軋りした。どこかのホテルかと思っていたそこは、しかし、何となく見覚えがあった。覚えている限り、軍が借り上げている宿舎の一つであり、出張や深夜勤務などで自宅に戻れない者が宿泊するための施設だったはずである。
 要するに、大佐が歩哨兵を呼んでエドワードをここから出さないようにと命令すれば、軟禁状態にもできるのである。
「それじゃ、わざわざ服を脱いでるのは何故だ」
「酒と煙草の匂いで噎せそうだったからな。嫌いだろう? 洗ってあげようと思ったのだが、見掛けより君は重かった。情けない話だが、途中で諦めたよ。それで、せめて楽なように服を緩めてあげたんだ」
 もっとも、アルコールのせいか、動作が酷く覚束なく、かつ粗野になっており、緩める前に破いてしまいそうになったため、適当に引き剥がしていたら、裸になってしまったという。
 ロイも堅苦しい軍服を脱いでシャワーを浴びたのだが、浴室から出てきたら急に何もかも面倒になってしまい、そのままベットに入って眠ってしまったのだとか。言われて見れば、髪の毛がまだ湿っぽかった。
 何とも酔っ払いの典型のような行動である。それで服が床に散らばっていたのか、と納得はしたが、しかし、それに乗じて悪戯されてしまったような気分になった。
「寝てる俺の体に、何か悪さしたんじゃねーだろうな」
「そんな余裕はない。人の親切を信じたまえ」
「通りに放り出さずにちゃんと屋根のある場所まで引きずって来てくれたことには感謝する。だがな、だからと言って、今になって体を撫で回すのはやめてくれ」
「舐め回す方がいいかね」
「どっちもヤダ」
 きっぱりとした拒絶に、しかし、ロイは面白そうにくすくす笑った。
「だったら、こんな生ぬるい愛撫ではなくて、本格的な性戯を君に仕込んであげよう。最初から最後まで、ね」
 言うなり、ロイはエドワードを仰向けにするとその上に圧し掛かり、両腕の手首を掴み上げた。
「よせ……っ」
 はっとしたようにエドワードは顔を背けようとしたが、少々遅かったようである。狙ったようにロイの唇がエドワードのそれを奪い取り、幾分乱暴に吸い上げた。
 熱い舌先が食い縛った唇をこじ開け、するりと口腔内に侵入して来る。それは臆面もなくエドワードの舌先を捕らえ、吸い上げるようにきつく絡まって来た。しかも、上顎から頬の裏、上下の歯列までを撫でるように辿られ、そのくすぐったさと大胆さに頭がくらくらした。
 実際、呼吸が上手くできず、ちょっとした酸欠状態になっていたらしい。ロイがやっと離してくれた時には、ぜいぜいと両の肺が苦しげに上下した。
「君にはちゃんとキスしてあげたつもりだったが、まるで慣れてないような感じだね。もう何度唇を交わしたのか、覚えているか」
「し、知るかよ、そんなこと……」
 自分でも真っ赤になっているのが判る。確かに、ロイには幾度となくこのような行為を仕掛けられ、翻弄されたてきたが、さすがにベットの中では初めてだった。ここまで互いの肌が間近に押し付けられたのも、問い詰められたのも。
 いつでもロイは引き際を弁えており、エドワードの不興を買う前に、するりとスマートに身を引いてくれた。ほっとするのと同時に、物足りなさをも感じていたが、これでちょうどいいのだ、とも思い込んでいた。
 それだけに、こんな舞台設定ではこの先何をされるか判ったものではない、という警報じみた身の危険を感じ取ってしまう。ロイの思い通りになるには、まだ覚悟ができていなかった。
 エドワードはロイの視線から逃れるように顔を背け、押さえつけられた手首を取り戻そうと暴れた。
 が、それを簡単に許すロイではない。ぐっと握力を込め、上から強引に体重をかけて圧し掛かると、エドワードの逃亡を阻止した。
「暴れてもいいんだよ。荒っぽいのがお望みなら、その通りにしてあげよう」
「脅してんのかよ」
「君を手に入れると決めているものでね」
「冗談は休み休み言えっ」
 照れているのではない。はっきりとした怒気を感じ取り、ふとロイは首を傾げた。この雰囲気はつい最近も感じた覚えがある。カマをかけるつもりで、ロイは努めて低い声で問いかけた。
「また、物分りのいいフリをするつもりか」
「……っ」
 ぎくり、とエドワードが体を強張らせる。どうやら、口に出そうとしていた台詞を先取りしたようだった。ということは、数日前言ってのけたように、「貞操観念」だとか「馬に蹴られる」などという下らない言葉に類することを言おうとしていたのだろう。どこでどう誰に吹き込まれたのか知らないが、余計なお節介をやってくれたものだった。これも徹底的に追及しなくてはならない、とロイは決心する。お互いのために。
「君がどういうつもりなのか、私の知ったことではないが、そういうことは考えなくてもいい。こういう時は、ね」
 が、エドワードはむっとしたように反論した。
「よくねーだろっ。俺は――」
「物分りのいいフリをしている者は、大抵下心があるものだよ、鋼の。君は何を隠している」
「隠し事なんかねーよ。誤魔化してもない」
 エドワードの台詞は殊更素っ気なかった。が、それも強がりのようだった。わざとそうしているのだろう。見え見えで、それでいて強気な言葉は、隠蔽しているはずの心情を暴露して欲しいという訴えの裏返しでもある。
 ならば、いくらエドワードが嫌がろうが否定しようが、ロイにはそれを望み通りの形で暴いて白日の下に晒してやる必要がある。吐き出してやらなければ、いつまで経ってもエドワードはロイのものにならない。いい加減、焦らされるのには飽きた。紳士然としているのにも倦んで来た。その気になるまでじっくり時を待つつもりだったが、そろそろ限界が来ていたらしい。
「エド……」
 呆れたように名前を呼んでやると、エドワードが腕の中でびくりと怯えるのが判った。それを心地よく思いながら、ぞろりと体の奥で、不穏な何かが蠢動し始めるのが判った。
「そろそろ本音で話し合おうじゃないか」
「な、何を……?」
 わけが判らない、という体でエドワードが、やはり視線を反らす。
「これ以上無駄に腹の探り合いをしたいわけではない。時間が惜しいじゃないか。私の気持ちはもう伝えてあるはずだ」
「知らねーよ」
 往生際悪く、エドワードがロイから逃れるように身を捩る。それを無理矢理押さえつけ、ロイは言葉を続けた。
「それで駆け引きしているつもりか。残念だが、そんな小手先の小細工で私の目を晦ませられはしない」
 語尾が、意識しないままに掠れた。自分でも驚くほど性急に、容易ならざる感情が昂ぶって来るのをロイは感じた。喉の奥から性的なものとは多少色合いを異にする高揚感が、不用意にもこの時、駆け上って来るのを、敢えて抑えようとは思わなかった。
 不届きな何者かの介在で、自分とエドワードとの間にギャップが生まれてしまっている。それは許し難い干渉だった。進行中の関係を、第三者の横槍で邪魔されることくらい腹の立つものはない。
 いったい誰が? そう思うと不愉快な苛立たしさを通り越して、尋常ならざる怒りが込み上げてくる。その相手を殴って脅して、何故そんなことを仕掛けたのか徹底的に聞き出し、報復してやりたい。
「……っ」
 突き上げてくる熱は、本人が自覚するより強烈だった。それが、かっと体に襲いかかる。同時に、己れ自身がやにわに強張り出すのが判った。
 箍が外れた、と表現すればいいだろうか。
「大佐……?」
 戸惑ったような、それでいて全く知らない者を見るようなエドワードの金色の双眸が、余計にその衝動を駆り立てた。
 名付けるならば、それは支配欲だった。
 かなり後になって、ロイはその時の激しい感情を思い出し、とんでもなく困惑することになる。強引に誰かの自由を奪い取ってまで己れの占領下に置きたいなどと欲したことはこれまでなかったのである。ひと方ならぬ権勢や権威に対する渇望は常にあったが、対象が個人という極めて明瞭で特定されたものへ、一筋縄でいかないほどの興味を掻き立てられたことなど一度もなく、動揺させられたとこともなかった。来る者拒まず、去る者は追わずで、何の問題も障害もなかったのである。
 せり上がる欲望を抑えかね、ロイは驚いたままのエドワードの四肢に噛み付くようなキスの雨を浴びせ、痛いという抗議も、敷布を握り締めたまま漏らす苦痛の悲鳴も受け流し、陵辱にも近い勢いで愛撫を施した。こんなやり方はロイの本意ではなかったが、どういうわけか、思ってもみなかった、酷く陶然とした気分に見舞われ、制御できなくなったのである。
「こ、この、ヤロー……」
 苦しい息の下から、それでも強気の瞳の色を喪失することなく、エドワードがロイを睨む。が、それさえも快い。舌舐めずりする気分で、ロイはエドワードの体を俯せて膝を立てさせ、性急に背後から圧し掛かった。
 何をされるのか気付いたエドワードは慌ててずり上がって逃げようとしたが、すかさずウェストに腕を回され、引き戻されてしまった。ロイはその中心部に己れの猛った切っ先を宛がい、一気に貫くべく、腰を突き出した。
「やめ…ろっ」
 エドワードは制止したが、間に合わなかった。否、何の効果もなかった。己れの未熟な蕾が無残に押し潰され、こじ開けるようにロイのものが強引に捻じ込まれて来るのが判る。みしっと軋んだ音が聞こえたような気がした。
「う……っ」
 一瞬、エドワードは息を呑んだ。が、次の瞬間、狂ったように身を躍らせた。
「い、痛いっ、バカ、よせ……っ」
 まだ先端しか挿入してはいなかったが、さすがにろくな準備もできていなかった秘部はロイのものを拒絶するようにぎゅうぎゅう締め付けてきた。責めているはずの男の方に苦痛が襲って来るほど狭くて窮屈なそこは、予想していた通り、誰の侵入も愛撫も受けたことがなかったらしい。傍若無人な闖入者を無我夢中で追い出そうと締め付ける。
 もっと痛がるのを承知の上で、ロイは更に奥へと己れを押し進めた。
「いっ」
 痛い、と叫ぼうとしたのか、しかし、それが途中で途切れ、無声音と化した吐息がエドワードの喉から漏れる。と、同時に、ロイはいきなりの陵辱に震えながらもいくらか力の抜けた狭洞の入り口を容赦なく突き上げた。ずぶっと硬く怒張した雁首が埋没する。そのまま柔らかな粘膜をきつく擦過し、奥部へと捻じ込む。
「あぅ…ぅっ……」
 泣くのを押し殺したような声が漏れる。が、インサートはいくらか楽になった。小刻みに痙攣するほど捩れて、刺すような痛みが走っているというのに、エドワードの内壁は凶暴極まるロイのものを受け入れ、やがて根元まで呑み込んだ。
 まさに、貫かれたという表現が正しくなるほど深々と突き刺さった鉄の楔は、傲慢に、不遜に、尊大に、エドワードの躯幹を蹂躙すべく息衝いていた。
 じっとしていれば、痛みは小さくなる。そこに残るのは耐え難い圧迫感と異物感、そして、羞恥にも似た屈辱感だった。息苦しいまでのそれは下腹部に重く圧し掛かり、内臓を押し上げ、眩暈すら引き起こさせた。
「動くぞ」
 囁くようにロイが告げたが、エドワードには殆ど聞こえていなかった。男の猛った肉棒が己れの中にあるということすら信じ難く、何が起こっているのか、何をされているのか、現状把握すら満足にできずに頭が混乱した。が、それも、ロイが腰をぐいっと引くまでの僅かな時間だった。
「……っ」
 いきなり内壁が引っ張られ、粘膜が抉り出されるような激痛が走った。
「や、やめろ……、動くな……」
 ぎゅっと敷布を握り締め、何とかその痛みに耐える。が、ロイは無視するように己れを半ばまで引き出すと、すぐにそれを押し込んだ。その直後、かっと燃え上がるような熱が生じ、エドワードを喘がせた。
 敏感な粘膜と粘膜が擦れ合い、その摩擦で、苦痛とも焦熱ともつかない、きつい感覚がエドワードを襲う。腰を引こうとすると、更に擦過されている部分が熱く、焼け爛れる錯覚とともに、全身から汗が噴き出た。
 が、お構いなしにロイは己れの欲望の赴くまま、何度も男根を押し入れては引き出し、引き出しては奥の間を突き上げた。そのたびにエドワードの秘部は不自然にうねり、背筋を刺し貫かれるような激痛に繰り返し襲われる。
「も……、やめ…っ」
 がくがくと腕が震える。体を支えるのが苦しくなってきたというのに、ロイはその哀訴を聞き入れてはくれない。秘部のどこからか滲み出して来た液体のせいか、それとも少しは慣れたのか、グラインドの間隔が短くなっていくのを頭のどこかで感じながら、エドワードは次第に意識が混濁していくのを止めることができなかった。
 余りにも突然で理不尽な仕打ちについていけなかったのかもしれない。どう言い訳しても、これは暴行だった。
 やがて、ぎしぎしと軋む耳障りなスプリングの音を聞きながら、エドワードはロイがひときわ大きくストロークし、ぶつけるように全てをぶち込むのを感じた。



 一度イッた後も、二度イッた後も、ロイはエドワードを離そうとはしなかった。狭い秘部に己れを撃ち込んだまま、背後から抱き締めた小柄な四肢のあちこちに口付けを落とし、時折りくすぐったそうに身を竦めるのを楽しんでいた。
 エドワードの体がぴくりと緊張するたびに内部に蟠居するロイを締め付けるため、その感触を味わおうと、飽きることなく繰り返されている愛撫だった。
「も……、いい加減に、抜けよ……」
 声に迫力がないのは、さんざん声を上げさせられたからだろう。途中から記憶が途切れていたが、煩悶するようにのた打ち回りながらロイの名を呼んでいたのは、しっかり覚えていた。
「一生の、人生最大の汚点だ……」
 と、嘆くエドワードに対し、ロイは上機嫌で問い返して来た。
「何故、そう思う」
「あんたと、こういうことはしたくなかったんだ」
「あれだけ挑発しておいてか」
 ロイの声が心なしか、低く沈む。これでも相手が何を考えて、何を望んでいるかぐらいは判る。その先読みができなければ、派手な女性遍歴などできない。エドワードは女ではないが、そういう対象にしているという意味では同じだった。
「挑発なんかしてねーよ」
 言いながら、ロイの腕の中から逃れようとする。動くとずるりと異物が内壁を擦る感触が酷く生々しく、本当に繋がっていたのだと実感させられる。しかも、さんざん突き上げられたそこは、擦り剥いたようなじんじんとした痛みが間断なく居座り、煩わしいことこの上なかった。
 が、それを何とか堪え、ロイから離れると、エドワードは怠くて仕方がない上半身を起こした。ばらばらに乱れてしまった金髪を煩げに掻き上げ、ため息をつきながら窓の外へ目をやると、まだ夜明けは遠く、夜空は白んでもいなかった。
 どうやらロイの引きとめは成功したらしい。この体ではしばらく動くのも億劫だった。
「何が不満なんだ」
 エドワードの背後でロイが腕を枕にして頭を持ち上げる。
「強引だったことは認めるが、そうでもしないと君と私の関係はいつまで経っても平行線だ。ここらで劇的な変化を起こしてもいいのではないか」
「言ってろ」
 やけに素っ気なくエドワードが言い捨てる。何かに失望したような、それでいて面倒臭そうな口吻に、ロイは首を傾げた。
 強姦まがいに抱いたことを怒っているわけではなさそうだったが、それにそぐわない投げやりな態度が気に障った。
「どういう意味だ」
 多少の恫喝を込め、ロイは身を起こしてエドワードの肩を掴んだ。こちらを向かせようとしたのであるが、無下に振り払われ、ついむっとした。
「そんなに嫌だったのか、私と寝たのが」
「ああ」
 やけにはっきりと、エドワードが肯定する。が、すぐにそれが強がりのようなものだとロイは感じた。何が気に入らないのか、不貞腐れて顔を背ける態度には、しかし、見覚えがあった。
「そう言えば、まだ応えてもらってなかったな。君に余計なことを吹き込んでくれた人物の名を」
「何のことだよ」
 いきなりの話題転換に戸惑ったように、それでもやばいと思ったのか、エドワードが嘯くように口を開く。
「そんなの、あんたに関係ねーだろ。一般常識ってヤツだ」
「そういう閨のあれこれを教えてくれるのは、大抵年長の男だな。普通は近所の兄貴的な存在が役目を果たしてくれるが、君はコミュニティからはみ出してしまっている。だから、その代わりをしてくれる人物がいるはずだ」
「何だよ、いきなり……」
「しばらく中央に行っていたそうだね。誰と会って来た?」
 質問の形を取りながら、容疑者はすでに絞り込まれているのだろう、ロイの顔が楽しそうに歪んだ。それを見るたび、エドワードはうんざりする。自分に知らないことは何もないのだ、とでも言わんばかりの尊大な態度が、時に酷く疎ましく厭ましくなる。監視されているわけではないというのは判っているが、全てを見透かされているような気分にさせられるのは、はっきり言って不愉快だった。焦らすつもりはないが、ついつい反抗的になってしまう。
「ヒューズか」
 案の定、だんまりを決め込むエドワードに先駆け、ロイが正解を出す。
「奴なら色々と君の興味を引くようなことを喋ってくれただろう。昔からやたらとお節介な奴だったからな。君の好きな貞操観念とやらも、解説つきでじっくり説明してくれたかね」
「……」
「しかし、それはそれでいい。私が聞きたいのは、別のことだ」
 そう言うと、ロイはこちらを向こうともしないエドワードの体に両腕を巻きつけ、そのまま抱き寄せるように己れの膝の上に乗せた。
「なっ何、しやがるっ」
「当然、君と立て込んだ話をするんだよ。一度、ゆっくり話したいと言っただろう。前にも言ったが、どうも見解の相違というものが君と私では大きく開いているようだ」
「ば、バカ野郎……っ、こんな体勢で話なんかできるか」
「できるんだよ」
 下半身を交えての話が。やりようによっては、それ以上効果的な方法もない。
 躊躇いもなく、ロイの手がエドワードの足の間を弄る。すぐに中心部のそれを見つけ出し、ロイは五本の指を絡ませると、軽く扱くように動かした。とたん、エドワードの下肢がびくりと波打つ。
 まだ萎え切ってはいなかった股間のものがロイの期待に沿って頭を擡げる。密着したに等しい大腿がにわかに引き攣るように張って行くのを感じながら、ロイは器用に手を動かした。
「大事なことだ。ヒューズに何を吹き込まれたか知らないが、奴の言うことはからかい半分、冗談半分だ。情報としては余り役には立たんぞ。今すぐ忘れろ」
 徐々に汗ばんでくる白い背中と肩に口付け、わざと耳元で囁いてやると、エドワードが咄嗟に歯を食い縛るのが判った。素直に快楽に身を委ねればいいものを、頑固に耐え忍ぶ態度をとるのにはもう慣れた。気持ちいいのが嫌いなわけではなく、反射的にそうしてしまう性格なのである。
 破天荒な見かけによらず、意外にもエドワードはモラリストで、他者がどれだけ忠告しようが罵倒しようが、己れの信奉する方法論や情念を捨て去らない。子供じみた思い込みをそのままの形で継承させ、何人の介入をも許さず、頑なに堅持している。いくら言って聞かせて説得しても納得せず、己れの価値観を第一にして、固執するのである。その固定概念は、どういうショッキングなアクシデントが起ころうとも変容せず、革新もしない。それだけ操縦不可能ということで、相手が体を弄り合うロイであっても、例外ではなかった。
 これまで、そのモラルに敬意を払って、エドワードの核に触れる部分には無視を決め込んでいたロイだったが、どうやらそれを避けては通れない段階に来ているようだった。その関門は思いの外、強固で判らず屋だった。
 それと同時に、ロイはふと思い出した。
 士官学校時代、下士官の身分で原隊へ送られる時、将来の士官として、または指揮官として相応しいかどうか心理チェックを受ける機会があったのであるが、その後、結果を教えてくれた教官が意外なことを言ってくれた。
「君は、エキサイトしやすいね。かっとなると見境がなくなる。気をつけたまえ」
 これまで、感情に任せた暴力沙汰や無軌道な行為など目立った不祥事を起こしたことがなかっただけに、その心理チェックは通り一遍のいい加減なものだったのだと断じていたのだが、今にして思うと、色々と心当たりがあった。
 早い話、男性性が強いのである。やたらとセックスフレンドが多かったり、若いうちに社会的に高い地位に昇りつめたりする者にはこのタイプが多く、外見的には成功者として周囲にもてはやされるものの、男性性にはそれに加えて、競争原理におけるライバルを捻じ伏せ、己れの管理下に置かねば気がすまないという暴力嗜好が潜んでいるのである。ちょっとしたきっかけで理性を吹っ飛ばしてしまう、危険な側面を持っている。
 もっとも、ロイはその衝動を完璧なまでにコントロールしており、平時下では冷静な士官と見做されて上からも下からも信頼されていた。それがこんな形で露出されるとは思いも寄らなかった。エドワードの心情を暴露しようとして、自分の方が暴露されてしまった。
「何、笑ってんだよ」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
 それよりも、とロイは愛撫していたエドワードのものを扱くように動かすと、指の腹で敏感な先端部分を撫で付けてやった。
「もう濡れてきた。さっきのでは満足してなかったみたいだね」
「う、うるせ……っ。それより、何する気だ……」
「決まっているじゃないか。君を満たしてあげるんだよ。足りなかったというのなら、足りるまで誠心誠意尽くしてあげよう」
「ば、バカ言うな」
 嫌がって下肢に力を入れると、後庭からロイがさんざん放ったものがとろりと溢れて来る。それを羞恥として耐え難く感じながら、それでもエドワードの体は急激に高揚して行った。
 本人の意思とは関係なく揺らめく不埒な熱は、しかし、頭で否定して消え去るようなものではなかった。
「ぁ……」
 と、やがて、エドワードが微かに震えながら吐息を漏らす。
「君の可愛い顔が見れないのは惜しいな」
 そう言うと、ロイはいきなりエドワードを膝から降ろし、体を反転させて仰向けにした。
「な、何……?」
 戸惑うようにきょとんと己れを見上げる表情が妙に幼い。その上に圧し掛かり、ロイはエドワードの両足を屈曲させて持ち上げた。
 その体勢だと、秘部が丸見えになる。それと気付いたエドワードが身を捩ろうとしたした時には、もう遅かった。下肢を浮かされた状態だと、いくら腹筋力があっても人間の体は起き上がることができない。
 ロイの、男にしては繊細な人差し指と中指が情欲を滴らせるその場所に押し当てられ、ずぶりと刺し入れられる。
「い、いて……。よせよ」
「大丈夫だ。どこも傷ついてはいない」
 あれだけ乱暴に己れのものを突き入れたというのに、出血の跡や怪我の跡はなかった。もっとも、その内部となると別である。ただでさえ薄い粘膜が鉄の楔に何度も擦過されて擦り傷だらけになり、歩くのも困難なほど傷めてしまっていた。
 そんな欺瞞が判るのだろう、エドワードが抗議の声を上げる。
「バカ言うな……っ。あれだけ犯ったんだから、もういいだろっ」
「まだだよ。君はまだこれの良さが判っていない」
 これ、と言いながらロイの指先が浅い部分にある丸みのあるしこりを見つけ出し、そこをぐいっと押さえつけるように刺激した。
 とたん、エドワードはびくっと身を震わせた。
「感じるか」
「なっ」
「ここだよ」
 もう一度同じ箇所を、圧力をかけて撫でるように触れる。エドワードは躯幹を突き抜ける、戦慄にも似た凄まじい快感に声もなく仰け反った。腰の奥から発したそれは一気に四肢へと攪拌し、痺れるような心地よさを伴って肌を上気させる。
 いったいこれは何なのか。未知の感覚にエドワードは動揺するしかなかった。が、何が起こったのか把握する間も与えず、ロイは容赦なく何度もそこを愛撫し、未熟とも言える体を内部から弄って行った。
「や、やめ…ろっ」
 信じられない快感に晒され、波状攻撃に晒された下肢が見苦しいほど震え、指先が引き攣るように反り返る。元々、男の体は射精の前後しか快感を得ないはずである。それが数度に渡って絶頂に近い感覚を与えられ、エドワードの意志を離れて高まっていく。引いたはずの汗が再び吹き出し、しっとりと四肢を濡らすのも感じられないほど翻弄され、眩暈のするような悦楽に引き摺り込まれて行った。
「あ、ぅ……」
 がくがくとロイに掴まれた足が揺れ、止まらなくなる。それでもそこから逃れようと、エドワードは敷布を掴み、体をずり上がらせようとした。
 もっとも、それを許すようなロイではない。すぐに引き戻し、己れの下肢の上へと引き上げる。勢い、エドワードは頭を低い位置に置くことになり、余計に平衡感覚が崩れて狂った。
 自分が何をされているのか判らなくなるほど強烈なパッシングを繰り返され、やがてエドワードは途中から放棄されていた己れ自身を解放してしまった。
「く……」
 一気に体が脱力する。が、じんじんとした悦楽は去らず、追いたてられるように、綺麗なピンク色に染まった肌がぴくりぴくりと波打つ。震えながら敷布に横たわったエドワードから指を抜くと、ロイはゆっくりと圧し掛かって行った。
「……っ」
 焼け付く熱の塊が再び押し当てられ、ひくつく秘部を淫靡に開かせる。中はじゅくじゅくと疼いて、ロイの侵入を歓迎でもするかのように絡み付いて来た。
「いい子だ」
 猫なで声にも近い、不必要なほど低く優しげな声音とともに腰を突き上げてやると、そこは限りなく従順にロイの欲望を銜え込み、奥へ奥へと誘って来た。その動きに逆らわず、エドワードの片足を胸に着くほど押し曲げてやりながら下肢と下肢を交差させてやると、熱い摩擦の抵抗の後、ロイのものは深々とそこに収まった。
「うっ」
 びくり、とエドワードが顔を背ける。
 苦しげでいて、どこか満足げにも見えるその表情に、ロイはどきりとした。今まで、このような顔を見たことがなかった。いつでもエドワードは満たされない欲求を抱え込んで各地を点々としていたのである。望みのものが手に入らない日々が日常となっているせいか、時にぎすぎすした視線を露骨にロイに向けることさえあった。
 二人でいる時くらいは寛いだ気分になって欲しかったが、これもエドワードのモラルに反することらしく、なかなかロイの思い通りにはなってくれなかった。
 憎らしいほどにエドワードはモラリストであり続け、ロイの劣情を駆り立てる。余りに頑なで強情っぱりだと、それをばらばらに壊して潰してみたくなるのもまた男のサガだった。
「こういうのはどうだ」
 と、不意にロイが腰を引き、己れの先端が見えるほどまで抜いてやった。
「な、何だよ……」
 見たくはなかったが、ロイの方へ視線をやろうとして、お互いが繋がった部分がエドワードの視界に入って来た。
 あからさまに男を咥え込もうとする秘部に、ぎょっとする。痛々しく、艶やかな肉襞すら覗く接合部分は、しかし、しっかりとロイのものにしがみつくように絡み、腫れたように赤く充血していた。
「やっ」
 咄嗟にエドワードが顔を背ける。が、それすらも刺激にして、ロイは比較的浅い部分で己れを小刻みに出し入れして見せた。
「う…ぁっ」
 ロイのカリの部分が先程のしこりの一部に当たる。指先で嬲られるよりはまだソフトだったが、突き上げられるような快感には違いない。傷ついた内壁はずきずきとしてこれ以上の摩擦を欲してはいないというのに、強請るような貪欲とも言うべき淫靡な肉欲が更なるグラインドを求めてうずうずと蟠っていた。時を置かず、エドワードの内股がひくつき、秘部がロイを締め付けるように収縮した。
「気持ちいいか?」
 ロイの声が掠れ、情欲じみた興奮を少なからず感じているのを、エドワードは意識のどこかで知って、喜んだ。
「い、イイ……、もういいから、どうにかしてくれ……」
 言いながら、両腕をクロスさせて顔を隠す。まともに息も継げないような激しい快楽に、もうどうにでもなれという開き直りのような、諦めのような感情が押し寄せてくる。
 くすっ、とロイが笑ったような気がした。
 どこにそんな余裕があったのか知らないが、貫かれる快感に身を委ねるエドワードの体を抱き寄せると、ロイは改めて己れを深々と撃ち込んだ。
「……っ」
 びくんっとエドワードが白い喉を反らす。痛みに引き攣っていたはずの内壁がじわりと舐めるような動きを見せ、ロイを喜ばせた。もう準備はできていたようで、容赦なく抜き差しをしても、奥の間を突き上げても、悲鳴は上がらなかった。寧ろ、泣くような、喘ぐような声を漏らした。それに応えるよう、ロイは徐々にピストン運動の間隔を詰めていった。
「こ、こんなの……、これ以上、されたら……」
 戸惑った台詞を漏らしながら、何度となく撃ち込まれる悦楽に、エドワードは次第に追い詰められ、追い立てられて行った。下腹部からの刺激に、体全体が熱に浮かされて行くようだった。
「そんなに感じるのか」
「馬鹿…言うなっ」
 そう怒鳴った刹那、狭洞が痙攣しながらきつく収縮した。それがロイの絶頂を促した。
「あ……」
 暖かな液体が内壁に迸り、肉襞という肉襞を淫靡に潤すのを、エドワードは朦朧とした感覚の中で、何とか感じた。
「う……」
 と、どちらのものともつかない吐息が漏れる。それを奪うように、ロイが口付けて来た。それを受け入れながら、エドワードはそっとロイの背中に腕を回し、抱きついた。汗ばんだ背中の感触が妙に嬉しく、そのままの状態でいると、支えているのが辛くなったのか、二人して敷布に転がることとなった。
「よかっただろう?」
 エドワードのこめかみや額に軽いキスを繰り返しながら、ロイが呟くように聞く。互いの下半身はぐちゃぐちゃに濡れていたが、まだしばらくはこうしてくっついていたい。
 が、一息つくと、エドワードは意を決したように、ロイから離れようとした。
「……もう、充分だろ」
「何がだね」
「終わったんだから」
 どこか寂しげに、エドワードが呟く。こんな形で幕切れが訪れるとは思わなかったが、いずれはこうなるはずだった。ずるずるした関係はロイの趣味ではない。ならば、さっさと離れて頭を冷やした方がいい。
 しかし、この状態で、ロイは問題を蒸し返して来た。
「ヒューズに、この関係をどう評価されたんだね」
 直ちに中止して撤収せよと忠告したのか、それとも、後退は認めず前進しろと助言してくれたのか。実のところ、ロイにも見当がつかなかった。
 何分にも、どこまで本気か冗談か、見分けのつかない時がある。妙にへらへらしていたかと思うと、その調子で機密事項を喋ったりする。気を抜けば、足元をすくわれる。また、それを楽しんでいる節もあり、付き合いは長いというのに、時に掴みどころのない、自称「親友」だった。
「別に、何も……。いいとも悪いとも言わなかった」
 乱れた息を整えながら、それでもエドワードは白状した。
「ただ、気をつけろって」
「何をだ」
「あいつは犯っちまったら終わりだから、って」
「私がやり逃げするとでも思っていたのか」
「違うのか」
 戸惑ったように、エドワードがロイの体から腕を離す。
「これまで色んな女性と付き合ってきたけど、誰とも長続きしないのは、落とす過程を楽しむタイプだから、寝てしまったらそれがゴールだと思ってるって。それで目的を達したら興味を失ってしまって、次の日からはまた別の女性を追いかけてる」
「……」
 思わずロイは沈黙してしまった。確かに、指摘された通りのエピソードは山ほどある。自分の手にないものを様々な方法で奪い取るのは、ある意味、快感である。それを繰り返してきたのだろう、と糺されれば、否定できない。エドワードに対して同じ態度を取る可能性は高い。
 どういう次第でそんなアドヴァイスをすることになったのか知らないが、ロイにとってもエドワードにとっても親しいヒューズが、過ちを阻止しようと入れ知恵をしても、それはそれでしょうがないだろう。
 が、すぐに、ロイは気を取り直した。
「つまり、君はセックスをエサにして、私との関係を続けたかったということか」
「……」
 エドワードは応えなかったが、ぎくりと視線を外すしたところを見ると、図星だったらしい。それで最後までの行為を拒否していたのである。駆け引きというには余りにも稚拙な手管に、ロイは呆気に取られる思いだった。
「バカなことを……」
「何、笑ってんだよ。俺はあんたのイロになるつもりはねーぞ」
「イロ……」
 情人に相当するヤクザ言葉を吐かれ、ロイは鸚鵡返しに呟いてしまった。これもヒューズから教わった単語なのだろうか。
「そんな蓮っ葉な言葉を使うんじゃない。柄が悪くなるだけでなく、格が落ちるぞ」
「どーでもいい、そんなこと。それより、もう終わったんだからいいだろ。いい加減、離せよ」
 ぐいっとロイの胸を押し返し、あくまでも終了を唱えるエドワードの態度は、酷く無理をしていた。少なくとも、ロイにはそう思えた。
「エド、聞いてくれ」
 笑いながら、暴れる体を腕の中に閉じ込めると、ロイは囁くように言った。
「残念ながら、君の謀は裏目に出たようだ」
「ど、どういうことだよっ」
「焦らされていた時間が余りにも長かったからね。その分、君に執着してしまったようだ。もう手遅れだよ」
 何が手遅れなのだろう、と疑問を呈するまでもなく、ロイがエドワードの顎を掴み上げ、半開きの唇に口付ける。
「君がさっさと落ちてくれれば、犯ってしまって終わりになったのに」
 そう言うと、にこりと極上の笑みを見せた。簡単に落ちる獲物など狩りとしては面白くない。なかなか自分の思い通りにならないからこそ、気を引かれるのである。
「じょ……っ」
「からかっているわけじゃない。もう少し、私と付き合ってくれ」
「だからって、強姦はご免だ」
「君が素直に応じるなら、次からは優しくしてあげよう」
「本気かよ……」
 ロイの台詞を胡散臭く思いながらも、エドワードは体の力を抜き、諦めたようにその抱擁を受けた。
「その淫水焼けしたナニを突っ込んでおいて、言う台詞とは思えねーがな」
「……」
 やはりヒューズは締め上げてやらねばなるまい、と決心するロイだった。



了 二〇〇五年一月一六日









  
 大佐の本懐です。しかし、強姦かよ……。と言いつつ、結構好きです。それくらい勢いをつけないとできなかったんですよね☆ あ、でも、やっとこれでエロの神様が降りて来たようです。
 本文にある「淫水焼け」という台詞ですが、何年か前、20歳そこそこの女友達の口から出た時は、絶句するほど驚きましたっけ。ロイもそんな気分でしょうね♪ せっかくだから、味わってもらいました。
 ともあれ、ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。m(__)m どうもお疲れ様でした。