積極的方策 10





 待てど暮らせど、ヒューズは戻って来ない。いい加減待ちくたびれたエドワードがロイの執務室のソファに寝転んだのは、そろそろ日付も変わろうかという時刻だった。留守居役のファルマンに用件を言付けて、明日出直そうかとも思ったが、せっかく手に入れた情報を即手渡しできないのは何となく悔しい。
 「執務室で待っててもいいか」
 と、ファルマンに聞くと、構わないと言われた。人の出入りが少ないため、ヒューズが戻って来たらすぐ判るだろうと思い、革張りのソファにころりと横になったのが、後から考えれば運の尽きだった。
 大きな欠伸とともに強烈な眠気に襲われ、不用意にもそのままエドワードは寝入ってしまった。
 いつ、室内の電灯が消されてしまったのか全く気がつかなかったが、いきなりぱっと眩しい光を当てられて身じろいだのは、それから約三時間後のことだった。
 「な、何だよ……」
 「鋼の……?」
 どうして、そこにいる、という怪訝な男の声に、エドワードは纏いつく眠気に悩まされながらも何とか目を開けた。
 ロイの執務机の上にあるアルコールランプに火が灯されており、どうやらそれがエドワードの顔を直撃したらしい。その眩しさから逃れるように寝返りを打つと、体にかけていたコートがずり落ちてしまった。それを拾うべく手を伸ばしながら、エドワードは大きな欠伸を漏らした。
 「やっと戻って来たのか……。もう待ちくたびれたぜ」
 「それは悪かったな」
 そう言えば、昨日ここへ来るよう言っておいたのだった。一日遅れではあったが、ちゃんと待っていたことにロイは感心した。しかし、その律儀さを褒めてやろうと口を開いた矢先、身を起こしたエドワードは無情な台詞を吐いた。
 「ヒューズ中佐はどこだ。一緒に戻って来たんだろ」
 「ヒューズ?」
 奴がどうかしたのか、と聞き返そうとしたロイを置き去りにするように、エドワードは拾ったコートを羽織り、袖を通した。
 「中佐とここで会う約束だったんだ。待ってろって言われて待ってたんだけど、こんなに遅くなるとは思わなかったぜ。いったい、どこで何やってたんだ」
 「……」
 ロイはしばらく沈黙した。どうやら勘違いしていたらしい。エドワードは己れを待っていたのではなく、ヒューズを待っていたのである。むっとするよりも、自惚れを暴かれたような羞恥に見舞われ、ついそれを隠そうとロイは無表情になった。
 「どうしたんだよ、大佐。黙り込んじまって」
 「いや……」
 エドワードの態度はそわそわしたものでも、よそよそしいものでもない。完璧なまでに自然体でロイに対していた。そこに、先日前の暴行の余韻など微塵も感じられない。もう忘れた、否、何もなかったのだ、とでも言うつもりだろうか。大した図太さである。
 「ヒューズに会うなら、今日はやめておいた方がいいぞ。奴は仮眠室に直行した。とっくの昔に夢の中だ」
 「何ぃ?」
 あからさまにエドワードが驚愕の表情を晒す。
 「何だよ、もったいぶって足止めさせといて、結局この仕打ちかよ……。本当にもう眠っちまったのか」
 「仮眠室まで乗り込んで行って叩き起こして来るか。だが、この時間だ。使いものにはならんだろう。朝になるのを待った方がいいと思うが」
 「それはそうなんだけど……」
 そういえば、夜這いをかけるなら早朝でもいい、という誰かのアドヴァイスを何となくロイは思い出した。夜にさんざん睦み合って、朝になってまた乳繰り合うというパターンの持ち主ならば、夜中でなくても成功率は高いのだ、と言いたかったらしい。己れの経験に照らしてみれば、確かにそれは有りだろう。もっとも、ヒューズがそのタイプなのかどうか、ロイの知ったことではない。
 「中佐って、無理に叩き起こしたら、怒鳴ったりぶん殴ったりする癖があったりするか」
 「さあな。ただ、低血圧だという話は聞いたことがない」
 やってみればいい、何事も経験だ、と意地悪くロイは嘯いた。
 せっかく待っていたのに、ここまで来て無駄足か、という惜しいような、虚しいような気分に囚われているのだろう、エドワードは。未練がましくも哀れな貧乏性のような台詞だ、とロイは思った。不覚にも油を売ってしまったという事実を認めるのが悔しいのは判るが、じたばたしてもどうにもならないものはどうにもならない。が、逡巡するかと思ったエドワードは、すぐに踏ん切りをつけた。
 「しゃーねーな、出直すか。中佐にそう言っておいてくれ」
 「鋼の」
 いともあっさりと諦め、とっとと出て行こうとしたエドワードは、しかし、不意にロイに呼び止められてぎくりと足を止めた。
 「何だよ」
 「そう急ぐことはない。せっかくこんな時間まで待っていたのだろう。少し私と話をしないか」
 その台詞に、明らかにエドワードは動揺した。これまで、そんな風に引き止められたことは一度もなかった。いつもなら、用が済めばさっさと出て行けとばかりに出口を示され、追い出されてしまうというのに、いったいどういう気紛れなのだろう。暇つぶしのつもりか、それとも、別の意図があってのことか。
 かろうじて平静を保ってはいるものの、興味を引かれていると同時に不信感を覚えて判断を迷っているエドワードの心情が明瞭にロイには察せられる。改めて、己れを襲った男と二人っきりであるという立場に気がついたのだろう。
 「あ、あんただって今日は疲れてんだろ。何かまた厄介な事件が起こったみたいだし……。やっぱ出直すよ」
 「いや、もうこの時間になると却って目が冴えてしまって眠れない。こちらへ来たまえ」
 エドワードの背後でロイが手招きをしているのが判る。何を考えているのか、咄嗟には見当もつかなかったが、しかし、エドワードの足は固まったように動かなくなってしまった。
 「来たまえ」
 もう一度ロイが呼ぶ。エドワードは緩慢な動作で振り返った。
 「な、何を話すってんだよ。あんたと共通の話題なんかないだろ」
 今回の事件から俺は手を引いたことだし、と続けようとしたエドワードを遮るように、ロイがしれっとして応える。
 「そうでもない。ベイシンガー嬢のことでは色々と世話になったからな。言っておきたいこともある」
 「恨み言でもぶつける気か」
 「まさか。不幸な成り行きが重なった結果、起こってしまった事件だ。今回のことは誰のせいでもない。強いて言うなら、本人が引き寄せてしまった結末と言える。君が責任の一端を感じる必要はないし、云々する義務もない」
 「大佐、悪いけど、あんたのノロケを聞く気分じゃないんだ。そういうのは次に口説く誰かさんに言ってやってくれよ。同情を引くネタとしちゃ上出来なもんだと思うぜ」
 「ライバルがいなくなってほっとしているかと思ったが」
 揶揄する響きを感じ取り、エドワードはむっとして言い返した。
 「自惚れんな。誰がそんなこと考えるか」
 「だが、先日のことがある。あの時は少々言葉が足りなかった。誤解されては困るし、このまますませるつもりもない。関係修復するいい機会だとは思わないか」
 先日のこととはほかでもない。ロイがいきなりエドワードを押し倒し、身包み剥いだことである。そう思い至ったとたん、エドワードは言いようのない身の危険を感じた。
 「思わねーよ」
 殆ど反射的に、脱兎の如く執務室から逃げ出そうとした。
 が、しかし、ドアノブを掴んで回そうとしたエドワードはぎょっとした。いつもは軽く捻っただけで回るノブががちりと固まって動かなかった。
 「な、何だよ、これ……っ」
 がちゃがちゃと、いくら揺すっても押しても引いても動かない。エドワードは焦った。それを嘲笑うかのように、ロイが説明する。
 「そのドアは内側から鍵がかかるようになっている。キーはここだ」
 と、これ見よがしに真鍮の細長いキーを翳して見せる。恐らくは、朝まで誰も執務室に寄せ付けないようシャットアウトして控え室で休むつもりだったのだろう。が、エドワードにとっては閉じ込められたも同然である。
 「俺は帰る。ここから出せよ」
 「つれないな、君は私に擦り寄って来て贔屓されることを熱望しているものだと思っていたが」
 キーを軍服の下衣のポケットに押し込むと、ロイは徐ろに椅子から立ち上がった。こつこつと靴音を立ててエドワードに近付く。
 「今更その態度はないだろう、私をその気にさせておいて」
 「うるさい……っ、ここを開けろよ」
 「できない相談だ」
 「俺はあんたのものになった覚えはない。なるつもりもない。いいから開けろ」
 がん、と機械鎧の右腕を叩きつける。が、それでも重厚な木製のドアはびくともしなかった。つくづく軍の使うものは、どれもこれもひたすら頑丈にできている。
 「あんなに喜んで、私を咥え込んでいたのにか。君の中はきつくて狭かったが、いけない口ではない」
 「言うなっ」
 不思議なことに、怯えたように吠え立てるエドワードを見ていると、勃然と喜悦の感情が込み上げて来た。どういうことか、性的興奮に酷似したそれは、過去において己れの身に湧き起こったものとは全く異質な色彩を放ち、じっとりと生ぬるく胸元に広がっていった。弱者を追い詰めて甚振り、それを料理して歓喜する俗悪な趣味など持ち合わせた覚えはないが、獲物を狩る立場になったのだと自覚するのに大した時間は掛からなかった。
 これまで、己れが何をしなくても言わなくても女は体を開いた。自分から追いかけるような真似をしたこともなく、ましてや縋りついたことなど記憶の端にもない。それだけに、己れよりも他の男の方がいいと平気で言い張る不遜な相手に、焦慮とも違う、憎悪じみた不快感を覚えた。それがまた歪んで捻れ、むかつくほど高揚感を煽る。
 「エド、こちらへ来たまえ」
 可愛がってあげよう、ヒューズよりも。しかし、エドワードはロイの手から逃れようと必死だった。どうやっても己れの腕力ではドアは開かない、と断じるや、両手を胸の前で打ち鳴らした。
 錬成反応を起こして突破口を開こうとしたのであるが、しかし、ロイは寸でのところでエドワードのウェストに手を回すと強引にドアの前から引き剥がし、勢いをつけて来客用のソファに投げ飛ばした。
 「何しやがるっ」
 いきなりの乱暴にエドワードが怒号を放つ。普段ならば、その粗野な反応に不愉快な思いをしただろう。が、何故か今のロイには心地よかった。この場を取り仕切っているのは己れであると実感しているせいだろうか、エドワードがどんなに抵抗しても暴れても、絶対逃がさないという自信がふつふつと湧き上がって来る。それは次第に確信じみたものへと変化し、ロイ自身を婀娜めく情動へと誘って行った。
 「それは、君が一番よく知っているだろう」
 ぷちっと音を立てて軍服の上衣の前を開く。シャツのボタンを外すのをわざと見せ付けられ、エドワードはかぁっと頬に血が昇るのを感じた。またからかわれている。ここでその気になったら、雰囲気に流されたエドワードを、ロイはさんざん嘲笑するつもりなのだろう。そんな屈辱には耐えられない。
 「悪趣味な奴……っ」
 ちっ、と舌打ちすると、エドワードはひと呼吸でソファから起き上がり、ロイを突き飛ばそうとした。もっとも、それは先読みされ、伸ばした右手を掴み上げられるや、そのままソファに押し倒されてしまった。
 どっと一気にロイの体重がエドワードの全身にかかる。
 「じょ、冗談もいい加減にしろっ。暇潰しの相手ならほかを当たれ」
 「冗談? 冗談や悪ふざけでこんなことはできない」
 不意に、ロイの端整な顔が近付く。エドワードは反射的に顔を逸らせた。
 「どけって言ってんだ。どけよっ」
 まるでパニックに駆られたように、エドワードはメチャクチャに暴れた。が、ごく冷静に、ロイは機械鎧の右腕を頭の上に捩じ上げると、痛みに身を竦める隙を狙ってエドワードの四肢を組み敷いた。
 ぎしり、とソファのスプリングが軋む。
 「う、あ……っ」
 びくりとエドワードが仰け反った。己れとロイの下肢が重なり、互いの熱が伝わる。その余りに赤裸々な情欲に、一気に心臓が跳ね上がった。どくん、と胸を締め付けるような動悸が喉元まで競り上がって来る。一瞬、それは呼吸を止め、ざわりと肌を上気させた。
 やばい、まずい、と危急を告げる台詞が脳裏を駆け巡る。が、経験不足のエドワードはどうすれば最善の策がとれるのか、全く判らなかった。ただ、己れの上に圧し掛かる男をどかそうと身を捩る。
 「エド、余り抵抗するなら、縛ってもいいんだが……」
 どうする? とロイが凶悪に囁く。軍服の肩から脇の下にかけて吊り下げられた飾緒はワンタッチで外れるようになっていると聞く。咄嗟の場合の捕縛の道具だ、と教えられたことはあるが、まさか自分がその対象になるとは思ってもみなかった。
 「こ、この野郎……っ」
 下衆を見る目つきでエドワードが切り返す。その反抗的なザマに、しかし、ロイはぞくぞくするような昂ぶりと興奮を覚えた。この小生意気で、決して誰の思い通りにもならない輩を支配し、跪かせてやるのは、どんなに快いことだろう。できるだけ手酷く犯して陵辱してやりたくなる。エドワードが抵抗すればするほど、その反撃に何をしてもいいという許しを得たような気になり、次第にロイの頭から冷静さを失わせて行った。
 そんな悪循環に陥っていることなど露ほども気付かず、エドワードはひたすらロイの体を押しのけようと抵抗した。それでなくとも、体術には人並み以上の自信がある。
 が、しかし、いい加減梃子摺って手を焼いたのか、ロイが肩の飾緒に手をかけた。エドワードは目の前でそれが外され、一本のロープとなって己れの両手首を戒めるや、ソファのアームレストに引っ掛けられるのを見てしまった。
 「なかなかいい恰好だ。そそられるよ」
 「っざけんな」
 唾でも吐きかけそうなエドワードの剣幕にも悠然と微笑いかけ、ロイはエドワードのスラックスのベルトを外すと、何の躊躇いもなく引き摺り下ろし、片足を胸に着くほど屈曲させた。当然のことながら、エドワードの未成熟な局部がロイの眼下に晒されてしまう。
 「よ、よせ……っ、見るな」
 「ここは覚えているだろう、私を」
 言うなり、ロイの指先が秘部の出入り口を突付いた。まだ、レイプされた傷は癒えていないだろうが、再起不能になるような暴行を加えた覚えはない。再びの凶行に及んでも、多少乱暴に扱っても壊してしまうことはないだろう。
 ロイがつけた爪痕や痣は内股や鼠蹊部にはっきり残っていたが、ヒューズがつけたらしい新しい情痕はない。数時間前の剣幕を思い出すまでもなく、昨夜は共寝を遠慮したのだろう。
 が、その情夫はほんの数m先の仮眠室で、無警戒にも寝こけている。鼻先で人のものを奪うというシチュエーションにロイは北叟笑んだ。否、狂喜した。
 「エド……」
 欲情した男の掠れた声に、エドワードはびくりとしたが、まだロイを睨みつけるだけの気力は残っていた。
 「俺はあんたのオモチャじゃない。思い通りになると思うな」
 「そんな風に扱った覚えはないが」
 そう嘯きながら、ロイは己れの下衣のファスナーを下げた。さすがにエドワードがぎょっとする。不安な表情すら見せたが、ここまで来てこの行為を止められるわけがないことも判っていた。同性として、男の性が制御不能になる事態を知らない年でもない。
 「手は外せないな。私が困る。怪我をしたくはないのでね」
 「ほざきやがれっ」
 と、強気な台詞を吐く唇が、途中で強張るように固まった。猛った男の先端がエドワードの秘部に押し当てられていた。そして、何の前触れもなく小振りの入り口をこじ開けた。
 「な……っ」
 エドワードが反射的に腰を引く間もあれば、切っ先が強引に埋め込まれた。ずぶり、と傘の部分までが呑み込まされ、ぎちっと狭洞が押し開かれると同時に、己れのものではない灼熱が無遠慮に入り込んで来た。いったい何が起こったのか、と言うようにエドワードがロイを見上げた。
 が、ロイは何も答えない。一度男を受け入れたそこは思いのほか従順に迎え入れる体勢をとり、挿入の角度を教えるようにうねっているようだった。それを見極め、ロイは一気に突き入れるべくエドワードの腰に手を添えると、残酷なまでに強引に己れを捻じ込んだ。
 「あ、くぅっ」
 身を引き裂くような激痛を再び味わわされ、しかし、悲鳴だけは上げるまいと唇を噛む。その悲痛な表情が酷く嗜虐的だった。ぐいっと更に身を進めると、エドワードは喉を仰け反らせ、引き攣ったような息を吸った。
 薄い内壁を削ぎ落とすようにぎりぎりと軋みながら挿入されたそれは、圧倒的な圧迫感を持ってエドワードに肉薄した。折り曲げられた生身の片足が痛々しく戦慄き、指先が反り返った。
 「相変わらず、きついな」
 侵入して来た異物を追い出そうとしてか、ロイのそれはぎゅうぎゅう締め付けられ、痛いほどだった。が、引くことはできない。片手でエドワードの腰を支えながら、ロイは更に狭洞の奥へと押し入った。
 「はう……っ」
 熱い鉄の楔が秘部を貫く。硬い杭を打ち込まれたようなその衝撃に、エドワードの目に涙が滲んだ。が、ロイは容赦なく己れを根元まで挿入すると、接合された部分から湧き上がる感触と熱を味わった。
 「こ、この……っ」
 エドワードが苦し紛れに下肢を動かす。が、ロイは圧し掛かったままやっと捕まえたものを離そうとはしなかった。寧ろ、引き寄せるように抱き締め、己れの体を押し付けた。
 「エド、この前は時間が余りなかったが、今日はゆっくりいい思いをさせてやろう」
 そう言うと、ロイは更にエドワードの腰を浮かせた。己れを半ばまで引き出し、もう一度奥の間を突き上げる。ずぶっともろに粘膜を擦過される感触に、エドワードは声にならない声を漏らした。何度か挿し直すように前後にグラインドされ、やがて、これまでになく深々とロイの男根が突き刺さる。
 「あ、あぁ……っ」
 ぎゅっと縛られた手が握り締められ、指先が白くなる。が、これからロイが与えてやるのは、遊びのような性戯ではなかった。前回の行為で見つけ出しておいた浅い部分にあるポイントを探り出すと、そこをわざと擦り上げた。
 「……っ」
 とたん、エドワードの下肢から背筋に鋭い快感が突き抜けた。何が起こったのか判らなかったのだろう、四肢を波打たせたエドワードは悲鳴も上げられなかった。目の前にちかちかした光が瞬き、頭の芯が焼け付くように痺れる。
 「あ……」
 「ここがいいんだな」
 「よ、よせ……っ」
 エドワードは酷く嫌がったが、ロイは構わずもう一度そこを責め立て、エドワードを喘がせた。
 男でも、責める場所を責めれば、狂乱するほど煩悶するし、達してしまうこともある、とは話に聞いている。こんなところで己れ自身が確認することになろうとは思ってもみなかったが、エドワードを淫靡な意味で喜ばせてやることに興味が湧いた。性悪とは言わないが、己れの意のままにならないエドワードを追い詰めてやるべく、ロイは試すように、丸いしこりのような部分を先端で擦過してやった。
 「あぅ……っ」
 がくっ、と腰が砕けたように下肢が崩れ落ちる。それを片手で支え直すと、ロイは再び己れを突き入れた。
 「やっ、嫌だ、そこは触るな……っ」
 「何故?」
 下肢ばかりか四肢ががくがくと震えていた。痛々しいと思わなかったわけではないが、もっとやればどうなるのか、とも好奇心が駆り立てられる。
 「せっかくだ、付き合え」
 そういい捨てると、ロイはエドワードの下半身を持ち上げたまま律動を始めた。
 射精する直前の強烈な快感が断続して襲い、何度も何度も瀬戸際まで行っては無残に引き戻されるという、殆ど責め苦のようなグラインドが繰り返され、エドワードは拷問のような快楽と苦痛に晒された。
 「うっ、あぁ……っ」
 突き上げれば突き上げるほど、ストロークはリズミカルに、滑らかになり、殆ど潤いのなかった秘部は濡れてぐちゅぐちゅと淫靡な音を立てた。それとともに、宙に浮いた膝が揺れ、それはエドワードが果てるまで続けられた。
 「こ、この……、覚えて…ろよっ」
 可愛くない台詞を打ち消すように、もう一度ロイがエドワードを貫く。
 「あ、い、痛い……、もうやめろ……っ」
 思わずエドワードは身を捩ったが、ロイからは逃れられなかった。その仕種に誘われるように一段と激しく突き入れられ、悲鳴を押し殺す破目になった。しかも、同じ勢いで引き抜かれ、中の粘膜を引きずり出される。
 そして、抗議をする口は封じられ、陵辱としか思えない行為が繰り返される。決してエドワードが受け入れてくれたわけではないが、ロイは動きを止めなかった。否、止められなかった。まだ、もっと、という欲求に突き動かされ、だんだんと己れ自身の意志すら曖昧になっていくような気がした。
 「あっ、あっ、あぁっ、あ……っ」
 もうまともな言葉も綴れないのだろう、エドワードはロイに嬲られるまますすり泣くような喘ぎを漏らし続けた。エドワードの潤んだ瞳に苦しげな表情が浮かび、それを愛しいと思いながら、ロイは己れの下肢から押し寄せる高まりを感じていた。次第にそれが抑えられなくなり、ひときわ乱暴にエドワードを突き上げる。
 ぐっ、と体が折り曲げられ、深々と奥部を抉られる激痛と紙一重の快感に見舞われたエドワードは息を呑むと同時に、背筋を弓なりに仰け反らせた。
 その刹那、ロイは痙攣するように収縮する秘部に締め付けられた。
 「くっ」
 そのまま、促されるようにロイは禁を解いた。己れの放ったものがエドワードの中を満たし、熱く広がっていくのが判る。
 「あ、あぁ……、はぁ……」
 消え入るような声とともに、エドワードの強張っていた四肢から力が抜けて行く。やがて、がくりとソファに沈み込む。お互いの汗の臭いが混じり、しばらく二人は全力疾走したような洗い息遣いを整えるようじっとしていた。
 「大佐……、解けよ……」
 掠れた声で、エドワードが縛られた手首を揺らす。機械鎧の縁がアームレストに当たってかちかちと音を立てた。
 「ああ、そうだな」
 解けば殴られるかもしれない、と思わなかったわけではなかったが、乞われるままロイはエドワードの両手を自由にしてやった。
 「バカが……」
 呟くように言うと、エドワードは両手を持ち上げ、そっと己れの上に圧し掛かる男の首にまわした。
 引き寄せられる仕種に、ロイは酷く戸惑ったが、少なくとも突き飛ばされるような制裁は受けなくてもすむらしい。男のそれを身の内に受け入れたまま、エドワードはどこか安堵したような吐息を漏らした。
 「あんたは、女専門なんじゃなかったのかよ」
 「そのはずだが、やればできるものだな」
 「実験みたいに言うな」
 「アナルセックスが初めてというわけではない」
 「じゃ、感想はどうだ。前に聞こうと思ってたんだけどな」
 「なかなかいい」
 言いながら、ロイはエドワードの手をどかし、上半身を持ち上げるように起き上がった。汗に濡れた額を拭うように前髪を掻き上げると、口元だけで微笑う。
 「と、言って欲しいか」
 「……っ」
 ひくり、とロイを咥え込んだ秘部がひくつく。エドワードはさっと目を逸らせた。
 「何を期待していた」
 面白そうに問われ、エドワードはロイを押しのけるように片腕を突っ張らせた。
 「終わったんなら抜けよ。もう用は済んだだろ」
 「締め付けて離さないのは君の方だ。抜きたいのなら、自分から動けばいい。私は引き止めない」
 屈辱的とも言える台詞にエドワードはかっとなったが、このままの状態でいいわけがない。必死で身の内に蟠る快楽の残滓を押し殺し、罵倒の言葉を紡ぎ出した。
 「この下衆が……っ」
 当然、ロイはいかにも興味なさそうに聞き流してくれるものだとエドワードは思っていた。
 が、どういうわけか、いきなりロイはエドワードの両手を掴み上げると、再びソファに押し倒した。
 「もう一度言ってみろ」
 「な、何だよ……っ」
 「下衆とは聞き捨てならない。どこでそんな言葉を覚えた」
 「どこだっていいだろ。手、離せ。あんたはもう何もしないんじゃなかったのか」
 「気が変わった」
 余りにも躾がなっていない。誰が教えたとまでは詮索しないが、このまま放免してしまっては後でどうチクられるか判ったものではない。どこかのスケコマシではないが、その身に覚えさせ、思い知らせる必要がある。
 「大佐……っ」
 ただならぬ凶行の気配を感じ取り、エドワードは息を呑んだ。慌ててロイを押しのけようとしたが、すでに手遅れだったらしい。さすがに手を戒められることはなかったものの、じわりと復活の兆しを見せる欲望に身が竦んだ。
 「よ、よせよ」
 腫れぼったくなった秘部の内側が熱を持っているのが判る。手酷く摩擦され、擦過された粘膜は充血し、真っ赤になっていることだろう。擦り剥いたような痛みを覚えながら、エドワードは何とかロイの腕を振り解こうとした。が、しかし、上から押さえ込まれている状態では、もがくことしかできない。
 「暴れるな」
 「あ、暴れずにいられるかよっ」
 「そんなに嫌か」
 「嫌に決まってんだろ。あんたはこんなこと、楽しいのか」
 「楽しいと言えば、付き合ってくれるのか」
 「んなわけあるか」
 かっとなってエドワードは喚き散らした。が、それと同時に、ロイをも締め付けてしまった。とたん、己れの置かれた情況を思い知る。
 しっかりと繋がっている接合部分が疼いた。無意識に内壁が蠕動し、エドワードを酷く淫蕩な気分にさせた。
 「どうした、いきなり大人しくなって」
 「ど、どうでもいいだろっ」
 エドワードは強がったが、どういう事態になっているのか判っているのだろう、不意にロイは体勢を変えた。
 「何すんだ……っ」
 と、エドワードが戸惑う間もあらば、いきなり抱き起こされ、ソファに座ったロイの膝の上に乗せられてしまった。
 「な、な……っ」
 こんな体位は知らない。しかし、下肢はしっかりと繋がれており、エドワードのそれがロイの腹に当たっていた。ぐじゅっと、狭洞に溢れた液体が厭らしい音を立てる。改めて秘部を貫かれ、エドワードは息を詰めた。
 「初めてか」
 「あ、当たり前だろ」
 つくづくエドワードは経験不足らしい。ますますもってヒューズとは大してベッドインしていないのだな、とロイは確信した。否、まるで全くのヴァージンのような振る舞いをする。抱き癖もついていないし、肉欲的な快楽にも慣れていない。
 「だったら、ゆっくり教えてあげよう」
 「こ、断る……っ」
 言った側からエドワードの声が掠れて途切れた。ロイは屈曲したままの片足を内腿から掬い上げると、わざとバランスを崩すように傾けた。咄嗟に、エドワードがロイの軍服を掴み上げ、しがみ付く。
 エドワードの背後には何もなく、応接用のテーブルが置かれているだけだった。さすがにソファから突き落とされるのはご免なのだろう。どこか小気味のいいものを感じながら、ロイはエドワードを前後に揺さぶり始めた。
 「ん……っ」
 と、エドワードが声を漏らす。上下に激しく突き上げられるのと違い、秘部を捏ね繰り回されるような感覚に見舞われ、収まったはずの疼痛に体が熱を帯びた。強引に情欲を燃え上がらせるのではない、様々なアングルからじっくりと嬲って行く愛撫にエドワードは酷く困惑した。優しいなどとは決して言えないが、互いの性器と性器を擦り合わせ、あやしながら徐々に取り込んでいくようなやり方は、逃げるチャンスを失わせ、いつの間にか抜き差しならぬ事態に追い込まれてしまう。
 どういう結果になるか明確に判っていながら、エドワードはロイに嬲られるまま責め立てられ、高められて行った。
 「んっ……ふ、あ、あぁ……っ」
 濡れた内壁が刺激されるたびに、半ば立ち上がったエドワードのものがロイの腹に擦り上げられる。わざとやっているのか、と思う余裕もなく、それが怒張し始め、じんじんしながら俄かに漲りだす。その露骨な兆しに、エドワードは無意識に腰を揺らした。
 それが、どういうわけか、ロイの陽動する角度と一致してしまった。ずるっと滑り込むように太棹が狭洞を擦過する。
 「う、ぁっ」
 びくん、とエドワードが仰け反る。突き刺すような鋭い快感が戦慄となって躯幹を突き抜けて行った。きゅうっと秘部が収縮し、ロイも息を詰める。
 「ここがいいんだな」
 もう一度、そこを狙って掬い上げるように内壁を擦り上げる。
 「やっ、やめろ……っ」
 「嫌か」
 「き、決まってんだろ」
 「やめろ、嫌だ。……そればかりだな。ほかに言うことはないのか」
 「あるわけねーよ。あんたこそ、楽しいのか」
 全く可愛げのない台詞を返して寄越すエドワードを小憎らしく思いながら、再度ロイは腕の中で何とか息をつく体を捻るように突き上げ、悲鳴を上げさせた。小刻みに震える四肢が抱きついてくるのはなかなかよかったが、まだ足りないものがあるような気がして、ロイはもうしばらくこのまま嬲り続けることにした。
 「エド……」
 耳元で囁いてやると、エドワードがぴくりと顎を上げた。
 「まだやれるな」
 「な、何を……っ」
 何をする気だ、と言い掛けた言葉を遮るように、ロイはエドワードの下肢を引き上げると、そのまま突き落とすように己れを挿し入れた。
 「あぅっ」
 いきなりの乱暴にエドワードが仰け反る。その勢いで解けかかった金髪が散った。びくびくと内股が痙攣しているのが判ったが、ロイは構うことなく、もう一度エドワードの四肢を突き上げた。
 「……っ」
 今度は声にならなかったのか、辛そうにエドワードが唇を噛む。それを見届けるや、ロイは先程とは全く違った凶悪さで再度秘部を貫き、エドワードの口を封じた。そして、それを二度、三度と繰り返した。
 「やっ、やめ……ろっ」
 メチャクチャに突き上げられ、男の欲望が出入りするたびに、じゅく、じゅく、と濡れた内壁が音を立てる。激しく上下に揺さぶられながら、エドワードはこれがピストン運動というものか、とどこか冷静に思った。
 興に乗ったロイはその行為をますます激しく、間隔を短くして行った。それに合わせるように二人の肌は上気し、うっすらと汗を滲ませた。背中から首筋にかけてのラインに熱が籠り、体温が上がっているのが実感できる。
 突き上げるたびにエドワードの腰がロイの太腿に当たり、軽快な音を立てた。
 「あ、あぅ、あぁっ、うっ」
 ロイの欲望によって押し広げられてしまった狭洞からぽたぽたと白濁した液体が滴り、床を汚す。己れのものではないのに、まるでロイと混じり合った証のように、それは止め処なく滲み出し、接合部分を潤ませて行った。
 やがて、エドワードの中で怒張したロイのそれがひときわその存在を誇示する。
 「んぁっ」
 びくん、とエドワードが顎を仰け反らせる。不意打ちのように、秘部の奥から耐え難い快感が鼠蹊部を伝って背筋を突き抜けて行った。その刹那、太腿が強張るように震撼した。
 「……っ」
 嘘だ、と心の中でエドワードは叫んだ。ロイは殆どエドワードのものには触れていない。が、二人の間で擦られていたのがそれなりの刺激になったのか、しっかりと立ち上がっていた。それが限界を迎えようとしている。その感覚は、身に覚えがあった。
 「は、離せ、い…いっちまう……っ」
 掴み上げていたロイの軍服を引き離すように腕を突っ張り、エドワードは何とかこのままの状態での射精を避けようとした。人前で、しかも、仕事をする場所で己れを解放するなど、羞恥の極みだった。が、ロイの楔は強靭で聞きわけがなかった。
 必死のエドワードの訴えにも耳を傾けず、その体を引き戻すと、ロイは息を弾ませながら、口走った。
 「私もだ」
 「……なっ」
 何が、と思う間もなかった。強引に引き摺られるように、その瞬間は唐突に訪れた。エドワードには抗いようもない。それは、ロイも同じだった。
 「あ、あぁ……」
 喉が引き攣るような感じだった。エドワードは卑猥な収縮を繰り返す秘部でロイを締め付けながら、眩暈のするような絶頂へと達した。ほぼ同時に、ロイがエドワードの背中に回した腕できつく抱き締めてくる。
 白濁した液体が秘部に迸り、エドワードの胎内がかぁっと熱くなった。
 「うっ……」
 目の奥に白い光が瞬き、頭がくらくらする。意識を失ったわけではないが、どっと脱力感が押し寄せ、エドワードはロイの腕の中に崩折れた。
 そのまましばらく二人は抱き合っていたが、やがてロイがエドワードを膝から降ろした。
 多少無造作にソファに寝かされたまでは覚えている。
 しかし、記憶がそこで途切れていた。恐らく、疲れて転寝してしまったのだろう。どれほどの時間が経ってしまったのか、うっすらと目を覚ましたエドワードは、寝入る前と同じ、スラックスを脱がされたままの状態でコートを被せられていた。
 「大佐……?」
 起き上がって執務室の中をきょろきょろと見回してみる。が、どこにも人の気配はなかった。夜明けが近付いたのか、締め切ったカーテンの向こうが白み始めている。
 どうやら、ロイは出て行ってしまったらしい。後始末をするのが面倒だったのだろうか、それとも、姿を消しているうちに帰れということなのだろうか。
 いずれにしろ、用済みである。
 「あんのヤロー……」
 ぎしぎしと、あちこちの筋肉や関節が軋んだが、何とか騙し騙し、エドワードはソファから降りると床に脱ぎ落とされたままになっていたスラックスを拾い、嫌になるほど汚れてしまった下肢を拭おうと、執務室を出て行くべく一歩を踏み出した。確か、廊下の向こうに洗面所があったはずである。
 ロイがここにいないということは、ドアの鍵は開いているはず、と思いながらノブに手をかけると、あれほどがっちりと固まっていたのが嘘のように簡単に回った。
 廊下に出ると、まだ暗く、電灯もついていなかったが、歩けないほどではない。一度だけ利用した記憶を頼りに、エドワードは廊下の先の曲がり角を左に折れ、その先にある洗面所へと向かった。元は夜勤や宿直の者が顔を洗ったり身拭いをしたり髭を剃ったりする場所だったのであるが、いつの間にか壁から壁に洗濯ロープが張られ、シンクで洗った下着やタオルがずらりと干されているという生活感溢れるスペースとなり果てていた。
 「そういや、シンクに水を張って行水してた剛の者もいたって言ってたっけ」
 いつだったかハボックからそんな話を聞いたことがある。どうせならシャワールームの方が良かったか、と思ったが、今の時間はお湯が出ない。ボイラーが稼動するのは、夜が明けてからである。
 洗面所に入ったエドワードは、吊るされている誰のものか判らない赤と青と黄色で縞模様の描かれた派手なタオルを勝手に取ると、水に浸して下肢を拭った。
 こんなことを一人で粛々とやっていると、酷く惨めな気分になってくる。しかも、この時まで気がつかなかったのであるが、エドワードは裸足でここまで歩いて来ていた。執務室のソファに転がる前にブーツを脱いだのであるが、そのまま忘れてしまっていた。
 「何やってんだ、俺は……」
 惨め過ぎて涙が出て来る。それを拭い、何とか身繕いを済ませると、エドワードは再び廊下に出てぺたぺたと歩いた。そのまま階段を降り、地階にある士官用の仮眠室に潜り込んだ。ブーツを取りに行くのは明日でもいい。それよりも、さっさと一人になって休みたかった。
 もっとも、士官用とは言っても、蚕棚に仕切り用の薄いカーテンがついているだけの、本当に「仮」眠室である。毛布の上掛けを被ると、隣近所の簡易ベットに寝転がる男達の寝息や鼾が聞こえて来る。高級軍人(中佐以上)用の仮眠室は個室になっていると聞いているが、己れとはまだ縁がない。
 腰から下の怠さや重苦しさを疎ましく思いながら、それでも目を閉じると、中断していた眠気がすーっと訪れて来た。
 ジャッ、といきなりカーテンを開かれ、エドワードが飛び起きたのは、それから四時間後のことだった。
 「こんなところにいたのか」
 呆れたようなブレダの声とともに、朝日が目を射る。エドワードは眩しげに瞬きすると、光を避けるように寝返りを打った。
 「おい、起きろ。エド、大佐が探してるぞ」
 「何で……」
 用なら昨日済んだはずである。これ以上何があるというのか、と抗議しようとしたエドワードは、しかし、間近でどさっと何かが投げ落とされる気配に、びくりとした。
 「お前のブーツだ。それ履いて、さっさと顔洗って来い」
 いつもながらの、ぶっきらぼうな口調でブレダが急かす。否、後はお前がやれとばかり見捨てられる。
 「何だよ……」
 不承不承起き上がり、壁にかかった時計を見遣ると、午前八時を大きく回っていた。夜勤の者はとうに帰宅して早番の者と交代し、通常勤務の者が出勤して来る時刻である。
 がりがりと寝乱れた髪の毛を掻き、エドワードは毛布を脇にやると、勢いをつけて起き上がった。
 「大佐が何の用だってんだ」
 「俺が知るかよ」
 ブレダの態度は相変わらずだった。エドワードは大きく伸びをするとブーツを引き寄せ、脱いでいたジャケットを羽織ってベットを降りた。
 「大佐はどこにいる」
 「執務室だ。さっさと行け」
 「その前に水浴びくらいさせてくれよ。顔を洗ったら、すぐ行くから」
 「ダメだ。すぐ来いってよ」
 「ケチ」
 「何だと?」
 「あのなぁ、俺は昨日の夜からずっと大佐達が戻って来るのを待ってたんだぞ。それなのに、結局会えず仕舞いで夜が明けちまった。なのに、今度はさっさと来いだ? いい加減にしろよ。大変だったのはあんたらだけじゃないんだぞ」
 唸るように抗議すると、さすがにブレダが顔を顰めた。そっちにそっちの都合があるように、こっちにはこっちの都合がある、と指摘されれば、その通りである。エドワードはロイの部下でもなければ、軍人でもない。命令を受ける立場にはなかった。
 「判った。だが、さっさとしろよ」
 「何をそんなに急いでるんだ。これからガサ入れがあるってわけでもないだろ」
 「大佐がえらくお冠でな。お前を見つけ次第、引き摺ってでも連れて来いってお達しだ。理由を聞くなよ。俺は何も聞いてないんだからな」
 「そうかよ」
 ブーツに足を突っ込み、紐をかけながらエドワードは怪訝に首を傾げた。どうやら昨日のご無体とは関係ないらしい。自分が寝ている間にまた急展開でもあったのだろうか。
 「ま、どうでもいいか」
 ブレダが仮眠室を出て行った後、エドワードはもう一度伸びをして体中に散らばる筋肉痛を宥めすかした。今回、東部に戻って以来、生傷が絶えない。ずいぶんとハードな日々だ、と改めて思う。
 もうお湯が使えるだろうシャワールームに向かおうとしたエドワードは、しかし、その途中にあるスタッフルームの前で足を止めた。開け放たれたドアの向こうに、ヒューズがいるのが見えたのである。
 「中佐」
 「おう、エドか」
 コーヒーカップを片手に、ソファに腰を下ろしたヒューズが振り返る。
 「どうしたんだよ、疲れ果てた顔して……。昨日、そんなに忙しかったのか」
 「まぁな」
 言いながら、こっちへ来いと手招きされる。エドワードはスタッフルームに入ると、そのままヒューズの横に座った。
 「お前も泊まりか」
 「俺、あんたが戻って来るのをずっと待ってたんだけど……」
 どうやら忘れられてしまったらしい。がっくりと肩を落として見せると、ヒューズが苦笑いしていた。
 「そういや、そうだった。すまん、昨夜はそれどころじゃなくてな」
 「進展があったのか」
 「悪い意味でな。例の将軍様が襲撃されて、病院送りになっちまったんだ。犯人はもっか逃走中。また仕事が増えちまったぜ」
 「病院送りってことは、殺されたんじゃないのか」
 「かろうじてな。ま、昼頃には麻酔も醒めるから、どういう事情か聞けるだろ。もしくは、仕損じたと思った刺客がとどめを刺しに来るだろうから、それを待つ」
 もっとも、G2の誰かがうろうろしていても呼び止めて事情を聞く権利はないが、とヒューズは心の中で但し書きを書いた。そちらはコール少佐の担当である。自分達は、アイロス将軍の犯罪を暴けばいい。
 しかし、この将軍様が危害を加えられる現場に自分達が立ち会う破目になったら、それを阻止する権利はある。何らかの事故が起こってアイロスのバックにいる組織の正体がバレたとしても、不可抗力である。
 無言のうちに言いたいことが判ったのか、エドワードがにやりと笑う。
 「上から圧力がかかったんだな」
 「ご賢察。今回はどう言い繕っても、軍の不祥事だ。ちゃんと告発して裁かなきゃな。内部の膿を全部出さないことには、腐敗が腐敗のまま温存されちまう。闇に葬っちまいたい奴も多いだろうが、俺はそういう秘密裏に始末しちまうってのには反対だ」
 「人の口に戸は立てられない、の間違いじゃないのか」
 「そうとも言う。ま、あんまり隠蔽ばっかやってると却って不審を招いて軍に対する信用を揺るがしちまうってこった。いいことだと俺個人は思ってない」
 言いながら、ヒューズはサイフォンの中で煮詰まったコーヒーを紙コップに注いでエドワードに渡してくれた。曖昧な言い方に終始した台詞だったものの、幸いなことに、エドワードは重箱の隅を突付くような問いかけをして来なかった。寧ろ、茶化した。
 「へらへらしているようで、ちゃんと考えてんだな」
 「へらへらしてるってのは余計だ」
 ふざけてヒューズがエドワードの肩を引き寄せ、軽く揺さぶる。無精髭にしか見えない顎鬚が額や頬の辺りに触れ、くすぐったさとじゃれ合いの気恥ずかしさにエドワードが声を上げて笑った。
 「よ、よせよ……っ」
 「俺を何だと思ってる。これでも法執行官の端くれなんだぞ。……で、お前さんは何の用だったんだ」
 記憶力よく、ヒューズは昨夜の電話でのやり取りを思い出してくれた。それへ、エドワードは悪戯でも仕掛けたような笑みを浮かべた。
 「いいこと、思いついたんだ」
 「いいこと?」
 何だそれは、とヒューズが聞き返す。それへ応えようとエドワードが口を開く。
 「ちょっと気になる場所があって、調べてみたいんだ。ある人物がそこに隠した何かを手に入れたい。そいつは入念に隠されているから、ちゃんと探さなきゃな。見当はついてる。そこへ行ってみれば、何かあるはずだ」
 「どこだ、そりゃ」
 「前に言ってたよな、俺とあんたが殴られて盗聴テープを奪われた時、襲撃者に殺意はなかったって」
 そうだ、とヒューズが頷く。ロイがキャットの殺害容疑者にされた時もアロイスが行方不明になった時も、結局は容疑を晴らす結果に動くよう誰かが細工した。
 「何でそんなことをしたのか、ちゃんとした理由があるはずだよな。或いは、そうせざるを得なかった理由」
 「まぁ、そう言われればそうだな。ヒントはいいから、お前は何をしたのか、話せよ」
 「せっかちだな」
 別にいいけど、とエドワードは肩を竦めた。が、それへ、ヒューズは言い返して来た。
 「人に報告をする時は、結論から先に言うもんなんだ。説明や経緯は、その後。説明を先に言うと、言い訳してるって思われるぞ。覚えとけ」
 「判ったよ。実はな……」
 と、エドワードは声を潜めるように、ヒューズに顔を近づけた。が、何か言おうと口を開いた時だった。
 いきなり、開けたままのドアを内側からノックされた。殆ど反射的に、二人は振り返った。どういうわけか、見るからに不機嫌なロイがドアの前に立っていた。
 「大佐……?」
 「よう、ロイ。どうした、不景気なツラして」
 睡眠不足からではない、立ち昇るような怒気に、エドワードは内心ぎくりとしたが、極力平然としてソファから立ち上がった。
 「何怒ってんだ」
 「さっさと来いと行ったはずだが。君に話がある」
 素っ気なく言い捨てながら、エドワードについて来い、とばかり顎をしゃくる。
 「ちょっと待ってくれよ。俺、今中佐と話してんだけど……」
 コーヒーだってまだ半分も飲んでいない。いくら不味くても捨てるのはもったいないし、エドワードとしては時間稼ぎしたかった。後から行く、ということにして、ここは引き取ってくれ、と頼んだつもりだった。が、ロイは無情にもそれを無視した。
 「今すぐだ」
 「た――」
 「エド、行って来いよ。終わったら、戻ってくればいい。俺はしばらくここにいるからな、話ならいくらでも聞いてやる」
 「判った」
 やれやれ、とエドワードが肩を竦める。ロイの強引さはよくよく知っていたが、己れに対して発揮しないで欲しい、と切実に思う。それでなくとも、まだロイには会いたくないエドワードだった。朝になって昨夜の絡みつくような情欲や欲求は払拭され、いくらかすっきりして晴れ間を見る気分になっていたというのに、またその相手と顔合わせするのは甚だ決まりが悪い。いったい、どういうつもりで二度も己れをレイプしたのか、不可解で仕方がなかった。それだけに近寄り難く、声もかけ辛い。
 かつかつと軍靴の音を響かせながら歩き出したロイの後を追いながら、エドワードは酷く困惑していた。当然のことながら、執務室に到着するまで、二人は無言だった。
 「どこへ行っていた」
 ドアを開けてエドワードを中に入れると、ロイは開口一番、そう問うて来た。珍しく、執務室の中には二人以外の者がおらず、シンとしていた。
 「ハボック少尉はどうしたんだ」
 「奴なら軍病院へ行った。頭の傷を抜糸するそうだ。それより、私の質問に答えたまえ。昨夜、いや、今朝はどこで寝ていた」
 「仮眠室だけど……」
 それが何か問題あるのか、とエドワードは怪訝に思った。別に規則違反はしていない。さっさと帰れというのならその意向に添うことに吝かではないが、いちいちロイに報告する義務はない。寧ろ、厄介払いできてほっとしたのではないのか。
 が、ロイはエドワードの思いもしなかった台詞を吐いた。
 「汚れたままあそこに潜り込んだのか」
 「……っ」
 ぴくっ、とエドワードの頬が引き攣る。汚れとは、ロイと自分の汗や体液その他諸々の混じり合ったもののことである。意味するところの行為を察して、咄嗟にエドワードは身構えた。
 「敷布は汚してねーぞ。ちゃんと身繕いしてから入ったんだからな」
 「身繕い?」
 「洗面所で水浴びした」
 「ブーツを置いたままか」
 「ああ」
 それがどうした、とエドワードは己れの目の前に立ちはだかるように対峙するロイに言い返した。司令部の中を裸足で歩いてはいけないという規則などなかったはずである。怒る理由があるなら言ってみろ、とエドワードは予防線を張った。が、どういうわけか、ロイは勘気を緩めるようなため息をついた。
 「何だ、そうだったのか」
 「……?」
 「執務室から忽然と消えていたから、逃げてしまったのかと思った」
 「あんたの不機嫌の理由はそれかよ」
 どうやら、室に閉じ込めておいたはずの獲物がどこかへ行ってしまい、行方を探していたらしい。否、ヒューズに言いつけるとでも思っていたのだろうか。成る程それなら放置しては置けない。意地でもエドワードの行方を捜して緘口令を強いただろう。
 しかし、余りにも無様である。この手のトラブルを、これまでロイはスマートに処理して来たはずではなかったのか。少なくとも女性関係に関して、所定の機関に訴えられるようなドジを踏んだという話はヒューズからもハボックからも、他の誰からも聞いたことがなかった。
 「ほっときゃいいだろ、俺のことなんか。勝手にどうにでもする」
 「私の手は必要ない、と聞こえるが」
 「その通りだぜ」
 今まで、己れに降りかかってきた災厄を片付けるのに他人の手を借りたことはなかった。自分の問題を他の誰かに肩代わりしてもらおうなどとはハナっから考えてはいない。原因が自分にあるなら、結果に対して責任を負う義務がある。
 それでなくとも、ロイがエドワードの置かれた境遇に積極的に介入しようとしたことなど一度もなかった。いつも一定の距離を保って示唆を与えるだけ。それがどういう気の迷いでちょっかいを出すのか、と不思議だった。もっとも、その守備範囲を超えようと、先に足を踏み入れたのはエドワードの方だったが。
 「安心しろよ、俺は昨日のことは誰にも言ってない」
 が、ロイはその答が気に入らなかったらしい。むっとしたように食って掛かった。
 「そんなことを気にしていたわけではない」
 「だったら、何だよ」
 「何故、私に付きまとう」
 「あんたに付きまとってたわけじゃない。俺はヒューズ中佐に用事があったんだ。こっちに戻って来てずっとそうだ。それ以外、ここでぶらぶらしてた理由なんかあるか」
 素っ気なく言っておきながら、エドワードは本当にそうだろうか、と心の中で疑問を浮かべた。思ったとたん、ずきりとした痛みが胸の内に走った。
 ヒューズとの待ち合わせは口実で、ここにいればロイに会える、という下心がなかったか、と問われれば、微妙なところだった。もっとも、エドワードはすぐにその可能性を潰した。否、潰そうとしてやめた。
 「ヒューズと何をしていた」
 「話してただけだ」
 「何を?」
 「さぁな」
 惚ける気はなかったが、まだヒューズにも言っていないことを先にロイに告げようとは思わなかった。
 「もういいだろ。俺は戻るぜ」
 そのままエドワードは回れ右しようとした。が、いきなり肩を掴まれて阻まれた。
 「私には言えないのか」
 「後でな」
 そう言うと、ロイの手を振り払い、エドワードはドアに向かった。鍵を締めるところは見ていないから、昨夜のように閉じ込められることはないだろう。ノブに手をかけ、エドワードは気紛れのように振り返った。
 「俺、そんなにあんたの気に入らないことやったか」
 「怒ってなどいない」
 「だったら、もう邪魔するなよ」
 あんたの返事は判ったから、もう理不尽な感情をこちらに向けてくれるな、という意味を含ませ、エドワードはその場を立ち去ろうとした。が、ロイは突っかかるように言った。
 「ヒューズと話をするなら、外でやってくれ」
 「判った」
 エドワードは逆らわず、ドアを開けると、さっさと廊下に出て元来た通路を戻って行った。
 「何だよ、あの言い方」
 憤然と、エドワードはスタッフルームに戻るなり、ヒューズに苦情をぶつけた。どこから出して来たたのか、朝食代わりに軍糧の乾パンを齧っていたヒューズはただ笑った。
 「勘弁してやれよ。この司令部はあいつの縄張りなんだから、部外者がうろうろしてんのは目障りなんだろうよ」
 お前も食うか、と乾パンの一s袋を差し出され、エドワードは素直に受け取った。そう言えば、昨日の夕方から何も口にしていない。甘味も水気も殆どない、大して旨くもない非常食は、栄養のバランスこそ優れた食品ではあるが、日常的に食べたいものではない。何より、災害に遭って焼け出されたような惨めな気分になる。
 「なぁ、ここでこんなしみったれたことやってないで、ちゃんとメシ食いに行かないか。司令部の周辺に適当に座れる店、いくらでもあるだろ」
 「まぁ、そうだが……、そうだな。どうせ、将軍様が目を覚ます前に病院へ行こうと思ってたところだ。道々お前さんのとっておきの話を聞くとするか」
 ヒューズは乾パンの袋の口を無造作に結び、仮置きのロッカーに放り込むとエドワードと連れ立ってスタッフルームを出て行った。
 「そういや、ハボック少尉も病院へ行ったって大佐が言ってたけど、例の将軍様が入院している病院と同じか」
 「軍の病院って言ってたか」
 「いや、そこまでは知らない。頭の傷の抜糸だけだから、すぐ戻ると思うけど……」
 と、不意にエドワードはヒューズが難しい顔をしたのを目にして言葉を切った。
 「どうしたんだ」
 「いや、何でもない。それより、どうせなら軍病院のレストランでモーニングセットとしゃれ込もうぜ。メニューは少ないが、ボリュームだけはある。それに、今の時間なら空いてるはずだ」
 「別にいいけど……」
 その言いざまに何か引っ掛かるものがあったものの、エドワードはクルマを借りるために車両部へ向かうヒューズの後を追った。
 軍の病院までは約三q。時間にして僅か数分だったが、その間にエドワードは必要なことをヒューズに話し、その上で一つの提案をした。
 「まぁ、いいだろう。やるだけやってみてくれ」
 危険はない、と勘案し、ヒューズはGOサインを出した。もっとも、結果が出たらすぐ俺に知らせろ、という条件付きで。それは承知の上だ、とエドワードは頷いた。
 「悪いが、先に将軍様の様子を見に行かせてくれ。朝飯はその後だ。焦らなくても、メシは逃げやしない」
 「逃げないけど、なくなっちまうぜ」
 「大丈夫だ、鯨でも飼っていない限り、残り物がある」
 下らない言い合いをしながら、二人は駐車場に入れたクルマから降りて、病院の玄関へと向かった。アイロス将軍が入院しているのは五階の個室だった。当然のことながら、面会謝絶の札がかかっており、念のため、見張りの兵士が一人、ドアの前に立っていた。恐らく、不寝番だっただろう。
 「ご苦労さん。何か異常はなかったか」
 と、ヒューズが気安く兵士に話しかける。顔見知りだったのか、上等兵の階級章をつけた青年はてきぱきと応えた。
 「異常はありません。つい先程、少将の副官が従卒を連れて様子を見に来られましたが、それ以外は誰も近付いておりません」
 「少将の容態はどうだ」
 「昨日と変わりありません。麻酔が醒めるまで、少なくともあと二〜三時間かかるとのことです」
 「ってことは、もう医者が回診に来たのか」
 「はい。半刻ほど前のことですが」
 それが何か? と兵士が怪訝な顔をする。ヒューズの表情が一変していた。
 「看護婦は来たか」
 「看護婦なら、昨日の夜から何度も出入りしてますが……」
 ほぼ二時間おきに点滴を換えなくてはならず、命に別状はなくとも、アイロスの体に繋がれた医療機器の様子を見たり、記録を取ったりするため、何度も出入りしていたという。
 「最後に看護婦がここへ入ったのは、何時頃だ」
 「医者が来た時ですから、三〇分くらい前ですね。……どうしたんですか」
 「悪いが、中を見せてもらうぞ」
 兵士が制止する間もあれば、ヒューズはドアを開け、殆ど押し入るように入って行った。病室は間仕切りのある約七m四方のスペースで、かなりゆったりとはしていたが、所狭しと名前も機能もよく判らない精密機械がごちゃごちゃと置かれ、雑然とした様子だった。しかも、その機械から延びたコードや点滴の管が何本もベットに向かって伸び、そこに寝かされている初老の男は、俗に言うスパゲッティ状態になっていた。
 が、ざっと見る限り、呼吸も心拍数も安定しており、特に異常らしい異常は認められなかった。機械がオールグリーンであるのは言うまでもない。
 「何かありましたか」
 ベットの脇に座っていた付き添いらしい看護師が、ヒューズの剣幕に怪訝な顔をした。
 「いや、何でもない」
 ほっとしたように言うと、ヒューズはすぐに引っ込んだ。
 「どうしたんだよ、中佐」
 「考えすぎだったみたいだ。行こうぜ」
 肩越しに片手を上げ、見張りの兵士に挨拶をすると、ヒューズはエドワードを連れて、今度こそ地階のレストランへと向かった。
 「前に、どっかのテロ組織が看護婦を買収して、入院していた裏切り者を毒物注射で殺したって事件があってな……」
 「そんな心配してたのか」
 病院で殺されるなど、考えたくもない事態である。ここは患者を治療する場所であって、始末するところではない。もっとも、墓場に一番近い場所でもあり、生と死は紙一重だった。
 階段を降りて行く二人を見送り、兵士は元通り、ドアの前に立った。
 そして、その様子を見ている男が一人。
 「危なかったな」
 もう少しで鉢合わせになるところだった。何とか姿を見られずにすんだことに胸を撫で下ろしながら、男は腰のベルトに挟んだ己れの銃を手探りで確認した。
 この、僅か一〇分後、交代を間近に控えた兵士は、尋常ではない発数の銃声を聞くこととなる。
 直後、けたたましいサイレンが鳴り響く。病院内に備え付けられた警報に、ヒューズとエドワードは座ったばかりの椅子から立ち上がり、即座に五階へと昇って行った。
 そこで二人が見たものは、血溜まりの中に倒れている上等兵と、開け放された病室のドアだった。
 しまった、と思う間もない。病室の中には、もう二体の死体が転がっていた。











2007,1,8 To be continued

  
 久しぶりに書いたロイエドのHシーンです。もうちょっと和姦っぽくなるように、と思っていたんですが、どう見ても強姦ですね。(^▽^;)
 でも、無理矢理の方が書き易いんです☆ エド、ご免。